研究課題/領域番号 |
16J11448
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小嶋 将平 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 内在性ウイルス様エレメント / 非コードRNA / ヒストンmRNAプロセシング / ウイルス感染抑制 |
研究実績の概要 |
ヒトを含む多くの哺乳動物ゲノムにはウイルス由来の配列(内在性ウイルス様エレメント)が存在する。内在性ウイルス様エレメント由来のいくつかは宿主の遺伝子として適応進化し、抗ウイルス作用等の重要な生理機能を担うことが知られている。私たちはこれまでに、ヒトゲノムに存在する内在性ウイルス様エレメントの一つであるhsEBLN-3がヒトの組織および細胞株において非コードRNAとして発現し、新たなボルナ病ウイルス(BDV)感染の抑制に寄与することを明らかとしたが、その分子機序は明らかではない。マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子変動の解析により、hsEBLN-3由来RNAがIL-1ファミリーサイトカインの発現を調節することが示唆されていた。そこで、IL-1ファミリーサイトカインがBDV感染に与える影響を解析するため、BDV感染細胞においてIL-1ファミリーサイトカインの過剰発現を行った。しかしBDV感染への明確な影響は観察されなかった。そこで、IL-1ファミリーサイトカインを同定した際に用いたマイクロアレイによる宿主の遺伝子発現の変化のデータを再解析した。その結果、hsEBLN-3由来RNAはIL-1ファミリーサイトカインだけでなくポリアデニル化されたヒストンmRNA発現量を制御することを見出した。さらに、ポリアデニル化されたヒストンmRNAの発現変化がBDV感染の抑制に寄与することを明らかとした。この分子機序は当初の仮説とは異なるものの、hsEBLN-3によるウイルス感染抑制の機序の一端を明らかとすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究では、宿主の遺伝子発現を網羅的に解析することでhsEBLN-3由来RNAがポリアデニル化されたヒストンmRNAの発現量を制御することを見出した。さらに、ポリアデニル化されたヒストンmRNAがウイルス感染の抑制に寄与しうることも明らかとした。この分子機序は当初の仮説とは異なるものの、本研究の目的であるhsEBLN-3によるウイルス感染抑制の分子機序の一端を明らかとすることができた。当初の仮説が真ではないことを示すデータが得られてからは、今までに得ていたデータを随時吟味しこれまで考えていた仮説の再検討を繰り返した。その結果、これまで解明されていなかった新たな宿主とウイルスの関係を明らかとすることができた。これらの過程で、真理を追求する洞察力を磨くことができ質の高い研究を行うことができたと考えている。また、本研究に関して口頭及びポスター発表を行い、3つの国際・国内学会において優秀な発表として評価された。このことから、外部からの研究に対する評価が高いと実感している。学会発表に加え、アウトリーチ活動として内在性ウイルスに関する分野横断的な研究会の企画も行い、学際的に研究に取り組んでいる。現在も精力的に課題に取り組んでおり、今後の成果に結びつくと確信している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「ポリアデニル化されたヒストンmRNAによるBDV感染の分子機序」と「hsEBLN-3の形成及び種間での保存」について解析を行う。BDVは核内での持続感染を成立させるためにヒストンタンパク質を利用することが知られている。そこで、hsEBLN-3由来RNAによるポリアデニル化されたヒストンmRNAの発現調節がBDV感染に必要なヒストンタンパク質の発現量を変化させることによりBDV感染を抑制する可能性が考えられる。この仮説をもとに、ポリアデニル化されたヒストンmRNAの発現量の変化がBDV感染に必要なヒストンタンパク質の発現量を変化させるのかを解析する。この解析によりhsEBLN-3によるBDV感染抑制のより詳細な分子機序を明らかとすることができると考えている。また、hsEBLN-3の形成及び種間での保存について進化学的な解析を行う。ヒトゲノムには複数のボルナウイルス由来の配列が存在するが、hsEBLN-3のみが多くのヒト組織でユビキタスに発現している。このことはhsEBLN-3が進化の過程でプロモーターを獲得し、その後宿主の遺伝子として適応進化したことを示唆する。hsEBLN-3の形成及び種間での保存を進化学的に解析することで、ボルナウイルスから宿主への遺伝子の水平伝搬が宿主の新たな遺伝子獲得及びウイルスとの攻防の歴史にどのように寄与したのかを明らかとすることができると考えられる。
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