研究課題/領域番号 |
16J11687
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
福田 胡桃 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 卵子 / Dazl / 転写後翻訳抑制 / RNA結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はDazlの発現調節機構の解明から卵形成に関わる遺伝子の転写後発現制御ネットワークを明らかにすることである。先行研究からDazlは生殖細胞において翻訳促進に働くRNA結合タンパク質であり、卵の一生を通じて必須の遺伝子であると考えられてきた。しかし、申請者は、通説に反し、生後の卵母細胞ではDazlの発現は不必要であり、むしろ3’UTRを介してDAZL発現が抑制されることに重要な意味があることを明らかにした。これに加え、雌マウスにおいてDazlの3’UTRを除き、卵母細胞においてDAZLが過剰発現になると産子数の減少をもたらすことが今までのデータから示唆されている。そこで今後は 1. 卵母細胞におけるDazlの過剰発現は卵発達段階のどこで異常を生じ、産子数減少を引き起こすのか 2.Dazlの下流でどのようなメカニズムに異常が生じたのか 3. 3’UTRを介したDazlの転写後抑制は如何なる因子により引き起こされるのか 以上三点の疑問に答えることで、卵形成におけるDazlを中心としたmRNA発現調節の分子機構の一端を明らかにしてゆく予定で研究を進めている。 特に今年度はDazlの過剰発現が生後の卵の発育に影響を与える時期並びに原因の特定を目指した。生後の卵は卵胞形成、排卵・受精、着床前胚の発生、着床といった4つの過程を経る。このうち、どの段階にDazlの過剰発現が影響し、産子数の減少を引き起こしたのかを特定することを目標とした。卵胞形成や排卵数には違いが見られなかったため、排卵された卵を培養し、1cellからブラストシストまで発生をするか調べた。すると、DAZL過剰発現卵は桑実胚やブラストシストになる胚の割合が非常に低く、受精後の発生に異常が起きている可能性が示唆された。つまり、過剰なDAZLの存在により、着床前胚の発生に異常が生じたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、今年度は過剰なDAZLの存在によってどの時期に異常が生じているのかをつきとめることができた。また、未受精卵や受精卵のサンプリングに必要な技術も合わせて身に着けることができ、今後の解析においてもマウスが十分量確保できればRNAseq等の解析に必要なサンプルを回収し、速やかに解析に移ることができると考えられる。 また今年度は、今まで得ていたデータの再確認も併せて行った。これまでの結果からDazlのconditional knockout(c-KO)の結果から生後にDAZL発現が存在しなくても卵子は発生を進め、最終的に子供を産むことができると分かっていた。これに加えて今年度は新たに、c-KOでは卵胞形成においてもコントロールと差がないこと、c-KOではDazl mRNAの発現が有意に減少しており、c-KOは効率よく起きていることを確認した。これにより、生後にDazlの発現が必須ではないというデータがより強固なものとなった。別の先行研究では生後もDazl発現が必要であるという結果が示されており、先行研究ではモルフォリノを用いたノックダウンが行われていた。今回の解析からこの先行研究での表現型がモルフォリノという方法を用いたことによって生じた異常である可能性が高まった。今後もc-KOの仔どうしを掛け合わせて、もともと報告されているストレートなDazlのKOと同様の表現型を示すか確認するといった作業を行い、裏付けを進めていく。 今年度は当初に立てた3つの課題の一つを解決し、過剰なDazl発現の下流で何が起きているのかという2つ目の課題にも着手しはじめることができた。更に、今までのデータをより強固なものとすることで着実に研究を前進させた。以上の理由から今年度の進捗はおおむね順調であると結論付けた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はDazlの下流でどのようなメカニズムに異常が生じたのか、そして、3’UTRを介したDazlの転写後抑制は如何なる因子により引き起こされるのかの二点に迫っていく。 前者に対してはM2の卵を集め、RNA-seqを行うことで、過剰なDAZLの存在が遺伝子発現に如何なる異常が起こしているのかに迫っていく。M2の卵子を選んだ理由は、この時期がまだ未受精卵であり、オスから引き継いだ要素の影響を受けない時期であること、さらにはサンプリングが容易であることが挙げられる。速やかにサンプリングを行い、解析を実行したい。 後者については、DAZLの発現が減少する時期に発現が上昇するRNA結合タンパク質が候補としてあげられる。これは、転写後翻訳制御においてはRNA結合タンパク質並びにマイクロRNAが主にその制御を担うことが示唆されているが、先行研究から、卵子ではマイクロRNAの働きは活発に起きていないことが示唆されているためである。すでにいくつかの候補となるRNA結合タンパク質をコードする遺伝子があるため、培養細胞を用いたレポーターアッセイ等を用い、Dazl mRNAとの相互作用を確認してゆくことで候補を絞ってゆく予定である。この手法を用いれば、培養細胞を用いた系であるため効率的に候補遺伝子の絞り込みが行え、素早く結果を得ることができる。このような手法で候補を十分にしぼった上で候補遺伝子の欠損マウス等を用いてDazl発現への影響を解析していく。 これに加えて、今後も今までのデータの裏付け作業を同時並行で行っていく。サンプル数の足りていないデータや今までの結果をサポートするデータを強化し、スムーズに論文投稿できるよう善処する。
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