研究課題/領域番号 |
16J11710
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
道田 航 崇城大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | シクロデキストリン / ナノリアクター / 導電性高分子 / 両親媒性 |
研究実績の概要 |
シクロデキストリン型金属有機構造体(CD-MOF)はg-シクロデキストリン(g-CD)とアルカリ金属塩から合成される多孔性結晶体であり、一般的なMOFに比べ比較的安価で、環境負荷の少ない材料として注目されている。しかしながら、CD-MOFを実用材料とするための研究はほとんどないのが現状である。CD-MOFは、6つのg-CDにアルカリ金属イオンが配位した(g-CD)6立方体ユニットから形成されている。ユニット内部には約1.7 nmの球状の空間が形成される。この空間はg-CDの外側の水酸基から形成されるため親水性空間となる。一方、(g-CD)6ユニット同士の接合部は、g-CDが2分子会合した構造が形成されるため疎水性空間(直径約1.0 nm)となる。そのため、CD-MOFは親水性空間と疎水性空間が相互に配列した両親媒性多孔質材料であり、活性炭やゼオライトなどの他の構造では見られない特徴を持つ。平成29年度は、ナノ空間に孤立した分子同士の化学反応が進行するか検討するため、CD-MOFの細孔特性を利用した導電性ポリマーの合成を試みた。
・シクロデキストリン系金属有機構造体(CD-MOF)内での3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合 CD-MOFは親水性ナノ孔と疎水性ナノ孔が交互に並んだネックレス構造である。この細孔内で、親水性もしくは疎水性のモノマーを重合させれば、親和性の強いナノ孔のみでポリマーが形成され、分子量が揃ったポリマーになると考えられる。CD-MOF中でのポリマーの合成は、CD-MOFにモノマー分子である3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を含浸させることで、親水性相互作用により選択的に親水性孔に導入し、EDOTとCD-MOFの複合体(EDOT/CD-MOF)を得た。重合開始剤は塩化鉄とし、アセトニトリル溶液中でCD-MOF中のEDOTを重合した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、ナノ空間に孤立した分子同士の化学反応が進行するか検討するため、CD-MOFの細孔特性を利用した導電性ポリマー(PEDOT)の合成を試みた。PEDOTは、優れた環境安定性を持つ導電性の高分子として知られている。CD-MOFにモノマー分子(EDOT)の導入量を決定したところ、(g-CD)6 ユニット当たり6.4個のEDOT分子が存在しており、その導入率は9.7%であった。XRD測定の結果より、重合前のEDOT/CD-MOFと重合後のPEDOT/CD-MOFではCD-MOFの結晶構造に変化は無く、CD-MOFの結晶構造を維持していることが分かった。TG測定の結果、PEDOT/CD-MOFの重量減少は300℃から400℃付近でCD-MOFとは異なる挙動を示し、PEDOT/CD-MOF内部のPEDOTはCD-MOFに導入されることで、熱分解温度が高くなった。ICP測定の結果より、PEDOT/CD-MOFは8.8%のPEDOTが導入されており、ほとんどのモノマーが重合していた。この結果から、CD-MOFに導入されていたEDOTのほとんどが重合したことが示唆された。TEMによりPEDOT/CD-MOFを観察したところ、試料表面に細かいファイバー状の構造が観察され、規則的な配列が観察された。CD-MOFの細孔内でPEDOT が合成されたことにより、無秩序な凝集を制御できていることが示唆された。MALDI-TOF-MASS測定の結果からCD-MOF中のPEDOTは最大でEDOTの5量体と推定された。以上の結果より、CD-MOF内にある親水性と疎水性のナノ孔の中でEDOTは親水性ナノ孔に孤立して存在し、その状態で重合するので、EDOTの5量体以上は重合が進まないことを明らかにした。これらの結果は、本年度にすでに論文に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、CD-MOF細孔空間内で3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合させ、3,4-エチレンジオキシチオフェンポリマー(PEDOT)を合成し、微小空間内で合成されたポリマーの物性や分子量を明らかにした。本研究から、CD-MOFは新材料合成の反応場としての応用につながる可能性が示され、CD-MOFの機能化に関する研究は、当初の計画に沿っておおむね順調に進展している。 平成30年度は、CD-MOFのナノ空間を用いた金属ナノ粒子と、その触媒活性評価に関する研究を展開する予定である。金属ナノ粒子は、新規物性の発現に加えて、異種金属の複合化による相乗効果によってさらなる機能の向上が期待されている。現在CD-MOFの規則性な細孔空間を反応場とした合金ナノ粒子の合成研究を進めている。これまでに、金や銀、パラジウムナノ粒子を導入させたCD-MOFの合成に成功しており、最近では金とシステインから構成される金クラスターとCD-MOFの包接結晶化に成功した。システインで保護された金クラスターとして存在する場合、CD-MOF中でも安定していることが明らかとなった。まず初めにCD-MOFの細孔を鋳型とした金属ナノ粒子の合成方法の確立と粒径の制御についての研究を行う。CD-MOFの細孔構造は親水性孔と疎水性孔が交互に配列した串団子構造であることから、高密度、高分散で粒径の揃ったナノ粒子複合CD-MOFの合成が可能である。
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