チオフラビンT(ThT)は、標的に結合すると蛍光強度が顕著に増大するため、アミロイドタンパク質の蛍光イメージングなどに長年使用されてきた。しかし、その蛍光強度増大に起因する化学構造近傍のN3位に着目した誘導体化はこれまでほとんど行われてこなかった。本研究では、N3位置換ThT誘導体の新規創製に取り組んでおり、遺伝子発現の特異的制御を作用機序とする医薬品の開発や、任意のバイオ分子に対する蛍光プローブの設計・合成法の開発などに応用されることを最終目的とした。 本年度は、前年度得た設計指針をもとに標的指向性の拡張を指向したThT誘導体を新たに合成し、分光学的手法によりそれらの機能評価を行い、さらに、固定化細胞中において蛍光および結合特性を評価した。具体的には、長いデカエチレンオキシドリンカーを導入したThT-Pのリンカー末端のアミノ基にリガンド分子であるコルチゾール誘導体を導入したThT-PCを合成し、標的であるグルココルチコイドレセプター(GR)が発現する乳がん由来細胞であるMCF-7細胞などを固定化し、蛍光染色を行った。結果、当該コンセプトによってさまざまな標的の高感度・高選択的なインジケーターを創製できることを実証し、ThT誘導体が蛍光ラベル化合物として高いポテンシャルをもつことを初めて明らかにすることができた。また、この研究成果を査読付き論文(一報)として刊行した。今後、本分子設計コンセプトに基づいて、さまざまな疾患標的分子に対する分子プローブが開発されるとともに、術中迅速病理診断等それらの分子プローブの臨床応用が期待される。
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