昨年度までの進捗状況として、Lemke 色素を含む金属微小共振器に関して透過分光を行い 1 eV という非常に大きな真空 Rabi 分裂エネルギーを観測し、超強結合状態の実現に成功していた。これを踏まえて、まず測定データの理論解析を行った。超強結合状態においては、強結合において無視することができる反回転項と A 2 乗項による相互作用が大きくなることが先行研究によって指摘されている。そこでこれらの項を含んだ解析的計算を行うことが可能な Hopfield モデルを利用した。Hopfield モデルによる理論計算は実験値とよく一致し、観測した現象が物質と光の超強結合状態に由来することが確かめられた。さらに同じ実験を色素濃度を変化させた複数の試料に対して行ったところ、真空 Rabi 分裂エネルギーを 0.5 - 1.0 eV 程度の範囲で制御することに成功した。Lemke 色素を利用した場合、吸収スペクトルにおける吸収ピークの位置や形をほとんど変化させずに真空 Rabi 分裂の大きさのみを制御することができる。このような系は過去に報告されておらず、Lemke 色素を含む金属微小共振器は超強結合状態の研究を行う上で大きなアドバンテージを持った系と言える。 次に有機物を用いた超強結合系に特有の巨大な真空 Rabi 分裂を利用して、ポラリトン分枝間遷移の観測を目指した。原子のように対称性の高い物質を用いた場合、このような遷移は禁制であるが、Lemke 色素のように非対称な系においては選択則が破綻し、ポラリトン分枝間遷移の観測が可能となるのではないかと考えた。これを踏まえて前述の試料に対して 2 色ポンププローブ分光を行ったところ、ポラリトン分枝間遷移に由来する可能性がある光誘起吸収を観測することに成功した。現在、これらの成果をもとに査付き論文を執筆・投稿中である。
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