研究課題/領域番号 |
16J11945
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
GUTIERREZORTEGA JOSESAID 千葉大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 側所的種分化 / ソテツ類 / 砂漠 / メキシコ / parapatric speciation / cycads / desert / Mexico |
研究実績の概要 |
側所的種分化は、適応的な多様化が姉妹隣集団間の発散と分離を促進する場合に発生する。メキシコのソテツ類Dioon属は森林や砂漠等の異なった環境に生息する種が含まれており、側所的種分化を理解するのに理想的なモデルと言える。 Dioonで側所的種分化を示すために以下のことを行った: 1. Dioonの遺伝的構造を決定するために、葉緑体DNAとMIG-seqによるゲノム一塩基多型(SNP)の変異を調べた。歴史的・地理的拡大を再考し、種分化の時間を推定した。 これらのデータから砂漠でのDioonの種分化は、砂漠の拡大と同時に起こったことが示唆された。 2. Dioon種(6048塩基対)の広範な葉緑体DNAデータを用いて、Dioon属の非常に信頼度の高い系統樹を再構築した。 森林と砂漠の集団間の姉妹関係をすべて検討した。 各クレードについて、乾燥地への適応を示す葉表皮形質の進化を見いだし、 形質の変化が気候変動と相関していることを発見した。 これは、乾燥がDioonの種形成を直接促進したことを示唆している。 3. 森林と砂漠の両方に生息する1つの種、Dioon sonorenseに焦点を当てた。 この種の分布パターンを詳細に検討することで、現在進行中の種分化過程に砂漠に対する適応がどれほど影響するのかを明らかに出来ると考えた。遺伝的構造を明らかにするためにMIG-seqのゲノムSNP情報を用いた。その結果、 Dioon sonorenseの遺伝的構造は、生息地の分化と一致していることがわかった。 この個体群の分化は、自然選択の対象となる遺伝子座を考慮すると非常に強いことが明らかとなった。これらの結果から砂漠の適応に起因する生息地の分化が2百万年前という非常に最近の種分化を促進したと結論づけた。 砂漠への適応はDioon sonorenseの側所的種分化を促進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すべての研究計画を計画通りに遂行した。これまでの結果からDioonの多様化は砂漠の拡大と同期して起こっていることが示された。Dioonの砂漠環境への進化は、南メキシコとメキシコ北西部で少なくとも2回発生したと考えられる。この証拠は、Dioonの進化が砂漠の拡大に関連していることを示唆している。これらの結果は論文としてまとめ、「Annals of Botany」に投稿中である。 また、微形態学的適応の進化が砂漠への生息地の移動と関連していることが明らかとなった。これらの微形態学的適応は、砂漠によって引き起こされる種分化が南メキシコと南西メキシコに存在するDioonの2つの異なるクレードで起きていることを示唆している。この結果も別の論文としてまとめ「Annals of Botany」に投稿中である。 また、砂漠への進化が起こった2つの異なるクレードに注目し、サンプリングを行った。私はDioon sonorenseの4つの集団で葉サンプルを収集するためにメキシコ北西部の砂漠と森林に訪れ、また、南メキシコの砂漠と森林に住む11の集団の葉を採取した。これらのサンプリングによって今後DNAとRNA分析を行うのに十分な量のサンプルを得る事が出来た。また、Dioon sonorenseについては、既にRAD-seqデータを取得し、その遺伝的構造について、生息地の分化に関連した論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、砂漠がDioon sonorenseの集団間での種分化を促進しているのかを検証している。 しかし、このパターンは他の姉妹クレードを対照として検討される必要がある。 現在、南メキシコのクレードでRAD-seqを実行中である。 このクレードは、気候勾配に沿った遺伝的差異を発見することを可能にする良いモデルとなるかもしれない。 このアプローチから側所的種分化に対して砂漠形成がどう影響したのかを理解することができると考えている。 私の仮説は、遺伝的変異が気候パラメータ、特に年間降水量と気温と相関するということで、これを検証するには細かい詳細な遺伝子構造を得ることが必要である。また、乾燥に対して自然選択を受ける遺伝子座が同定されることを期待している。 これらに加え、異なる集団からの8つのサンプルについてRNA配列決定を行う。Dioon sonorenseには、森林からのものと砂漠からのものの2つの集団がある。 他の6つのサンプルは、南メキシコの4つの種に由来する。 この分析は、異なる気候下での遺伝子発現の差異に関するデータを取得するのに役立つ。 これにより、砂漠の適応のために進化している遺伝子を同定するための詳細な配列データを得ることが出来ると期待している。 Dioon sonorenseとSouth cladeという2つの異なるクレードでの遺伝子発現の収斂が見られる可能性があると考えている。 また、森林から砂漠までの気候の勾配が炭素の固定に影響を与えるかどうかを検証するために炭素安定同位体分析を行う。 この分析は、C3光合成(湿気の多い森林に共通)がCAM光合成(砂漠で見られると予想される)に進化したかどうかを理解するのに役立つ。 この分析を行う事で、実際にDioonの砂漠への適応が生理学的な適応を含むのかも検証することが出来る。
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