研究課題
ライソゾーム病は、ライソゾーム内に脂質、ムコ多糖などが蓄積する難治性疾患であり、中でも神経症状に対する治療薬の開発が望まれている。本研究では、代表的なライソゾーム病であるニーマンピック病 C 型 (NPC) および GM1ガングリオシドーシス (GM1G) を対象とし、脂質と相互作用することが知られているシクロデキストリン (CyDs) を用いて、神経症状の治療薬を企図したライソゾーム病治療薬を新規に構築することを目的とする。本年度は、中枢神経系にデリバリー可能な結合体の構築を目的に、β-CyD および TM-β-CyD に膜透過性ペプチドであるオクタアルギニン (R8) を導入した脳移行性 CyDs 誘導体 (R8-β-CyDs) の合成を行った。その後、HPLC により R8-β-CyD および R8-TM-β-CyD を分離・精製し、分子量および構造を TLC、1H-NMR、FAB-Mass により評価し、調製の確認を行った。さらに、熊本大学発生医学研究所幹細胞誘導分野により樹立された NPC および GM1G 患者由来iPS細胞を用いて、神経幹細胞およびニューロンの誘導を行った。神経幹細胞のマーカー分子 (SOX1、NESTIN) およびニューロンのマーカー分子 (βIII-tubulin) を用いた免疫染色により、分化誘導の確認を行い、当初の予定通り実施することが出来た。また、神経幹細胞およびニューロンの脂質蓄積量を定量した結果、健常者由来の神経幹細胞およびニューロンと比較して、NPCおよびGM1G患者由来の神経幹細胞およびニューロンの方が、コレステロールおよびGM1ガングリオシド蓄積が有意に高いことを明らかにした。以上のことから、神経幹細胞およびニューロンの分化誘導、中枢神経系での脂質蓄積に対する評価系を確立したものとする。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書記載の研究計画において、本年度は、(1) 脳移行性 CyDs 誘導体の合成とそれらの化学的・物理的性質の解析、(2) 患者由来神経細胞における脂質蓄積量の変化、(3) モデルマウスの脳における脂質蓄積量の変化を行うことになっており、(1) (2) に関してはおおむね当初の予定通りに進捗している。しかしながら、(3) のモデルマウスに関する検討として、本年度は、NPC モデルマウスに R8-β-CyDs を脳室内投与後、行動障害および生存率を評価したが、NPC 患者に対して人道的臨床応用が行われている HP-β-CyD と比較して、有意な差を見出すことができなかった。その要因として、①R8-β-CyDs が中枢神経系の細胞内に取り込まれない、あるいは②R8-β-CyDs が投与部位付近で急速に細胞内に取り込まれ、表現型が現れる小脳プルキンエ細胞内にほとんど取り込まれないこと、の二つが考えられたため、次に、R8-β-CyDs の細胞内取り込みを検討した。まず、蛍光ラベル化した R8-β-CyDs を健常マウスに脳室内投与し、イメージング装置 IVIS により動態を観察した。その結果、R8-β-CyDs は脳室内投与後、投与部位に存在することが示唆された。さらに、蛍光ラベル化した R8-β-CyDs は分化誘導した健常者由来神経幹細胞において細胞内に取り込まれることが示唆された。以上のことから、R8-β-CyDsは中枢神経系に取り込まれる可能性が示唆されるものの、脳室内投与後病態の改善には至らなかったものを推測される。したがって、今後は本化合物をリード化合物とし、脳室内投与後、表現型が現れる小脳プルキンエ細胞内に取り込まれる新規誘導体の構築を行う予定である。
本年度の検討において、R8-β-CyDsは中枢神経系に取り込まれる可能性が示唆されるものの、脳室内投与後の病態改善には至らなかったことから、次年度は本化合物をリード化合物とし、脳室内投与後、表現型が現れる小脳プルキンエ細胞内に取り込まれる新規誘導体の構築を行う予定である。また、本年度はニューロン分化に時間を要したことから、当初の予定であったCyD誘導体で処理後のGM1ガングリオシドの蓄積を評価するには至らなかったため、次年度は、ニューロンにおける脂質蓄積に及ぼすR8-β-CyDsの影響を早急に評価する予定である。さらに、新規 CyDs 誘導体の中枢神経系へのデリバリー効率、体内動態、静脈内投与後の治療効果を検討する。中枢神経系へのデリバリー効率および体内動態は、蛍光ラベル化した新規 CyDs 誘導体を調製し、マウス尾静脈内投与後、in vivo イメージング装置を用いて評価する。また、新規 CyDs 誘導体の臓器分布や、血中および脳脊髄液中半減期は蛍光 HPLC を用いて測定する。さらに、GM1 ガングリオシドーシスモデルマウスに新規CyDs 誘導体を静脈内投与し、GM1 ガングリオシド量の減少効果、行動障害・生存率に対する治療効果を評価する。また、in vivo における安全性を検討するために、血液生化学検査値の測定、各臓器の肉眼的観察、染色組織切片の顕微鏡観察にて評価する。
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