今年度はいくつかの火山を対象に1-10平米規模の口径面積をもつ原子核乾板検出器を用いたミュオグラフィ観測を開始した。具体的には樽前火山、ストロンボリ火山、ウェスピオ火山での観測を行っている。(ストロンボリ火山、ウェスピオ火山は東京大学地震研との共同研究)。 他分野への応用としては、エジプトのクフ王のピラミッドにおいて、ミュオグラフィを用いた内部構造探査を推進してきた。2017年11月にはクフ王のピラミッド内部に長さ30m超の巨大な空間があることをミュオグラフィにより明らかにし、内容を論文としてNature誌に投稿した。来年度以降は多地点観測により、今回見つかった空間の3次元構造を詳細に明らかにすることを目指していく。 検出器開発についても進展があった。火山やピラミッドでのミュオグラフィ観測では、高温の環境下においても検出器が長期間安定的に動作することが必要であり、原子核乾板検出器では記録されたミューオンの飛跡が時間とともに消去されていく「潜像退行」とよばれる現象が問題となる。我々は原子核乾板の長期間特性を改善するための研究を、名古屋大学の原子核乳剤製造装置を使用して行なってきた。今年度の研究で、新たに潜像退行を促進していた化学物質を特定することに成功した。この化学物質を取り除くことにより、潜像退行の顕著な改善がみられた。この成果は写真学会等で報告した。現在特性改善した原子核乾板検出器を実際のミュオグラフィ観測で使用を始めている。
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