原子核乾板を用いた火山の宇宙線イメージングプロジェクトは、樽前火山・大室山(東大地震研究所と共同研究)・ストロンボリ火山(ナポリ大他と共同研究)・ヴェスビオ火山(ナポリ大他と共同研究)で進行中である。いずれの火山でも原子核乾板検出器を積層構造にし(低エネルギーなノイズを減らす目的)、かつ複数検出器を並列に設置した(大口径化)。特にストロンボリ火山では使用した原子核乾板の総面積が約10平米で、過去の原子核乾板による火山観測の中では最大規模となった。それらの原子核乾板検出器の製造は名古屋大学で整備した生産設備で行なった。 原子核乾板検出器の開発では、二点の大きな進捗があった。一つは原子核乾板を長期間設置・観測する際に問題となる「潜像退行」現象を、原子核乳剤に添加する薬品によって抑制することに成功した。二点目は同様に長期間の観測で問題となる、フォグ(化学的、熱的に生成するランダムノイズ)の主原因が、原子核乾板のパッケージ材にあることを明らかにし、新しいパッケージ材を導入することでフォグの発生を抑制することに成功した。開発した新型原子核乾板の火山観測への適用はまだだが、以下に述べるピラミッドの観測では、25℃から27℃と温度の高い環境下において実際に使用した。 昨年度にも報告したように、エジプトのピラミット群を科学的に調査する「SCAN PYRAMID」プロジェクトに参画し、我々のチームがクフ王のピラミッド内部に未知の巨大空間が存在することを発見した。今年度も巨大空間の詳細な形状を明らかにすること目的として観測を続けている。火山のイメージング同様、ピラミッドにおいても統計の向上(大口径化×長期間観測)によって高解像なイメージングが可能となるほか、複数地点からの観測を行いトモグラフィックな解析を行うことを目指している。
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