研究課題/領域番号 |
16J30001
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊藤 美菜子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 脳梗塞 |
研究実績の概要 |
脳梗塞は本邦における主な死因、寝たきりの原因の一つであるが、その進行過程の免疫学的な理解は緒についたばかりである。脳梗塞発症数日以内の急性期では自然免疫応答による炎症が中心で解析は進みつつあるが、その後の慢性期の免疫応答についてはほとんど解明されていない。我々は脳梗塞モデルを用いて発症後2週以降の慢性期の解析を行なった。その結果、慢性期では浸潤細胞の大部分はT細胞で特に制御性T細胞(Treg)が極めて大量に集積していること、さらに炎症の終息と神経修復にTregが重要な役割を果たすことを見出した。本研究では脳梗塞慢性期の脳浸潤型Tregの生理的意義とこのサブセットを規定する脳由来因子を同定する。さらに組織修復と神経再生を誘導するTreg誘導のメカニズムの解明をめざす。これらによって脳内炎症の終息と組織修復の分子機構が明らかになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、脳梗塞に対する獲得免疫応答におけるT細胞の役割について明らかにした。マウス中大脳動脈閉塞モデルを用いて、脳内へのT細胞の浸潤を解析したところ、発症後2週以降に梗塞巣におけるT細胞の増加が認められた。T細胞は脳内と所属リンパ節の両方で増殖していることが分かった。T細胞を欠損するマウスではWTに比べ、アストロサイトのグリオーシスの異常形成が見られた。制御性T細胞(Treg)を特異的に除去するマウスを用いることによって、Tregが特にアストログリオーシスの制御や神経症状の回復に重要であることがわかった。Tregはケモカイン受容体のCCR6、CCR8を高発現しており、そのリガンドであるCCL20とCCL1を脳室内投与することによって脳内のTegが増加し、神経症状も改善した。脳内のTregの増殖にはIL-2が重要であり、αIL-2抗体を投与すると脳内のTregが減少し、IL-2を脳室内投与すると脳内のTregが増加した。
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今後の研究の推進方策 |
【T細胞の抗原特異性を利用した脳梗塞ワクチンの開発】WTとT細胞を欠損するマウスに一度脳梗 塞を起こし、その後期間を開けて獲得免疫が成立してからもう一度反対側の脳半球に脳梗塞を起 こす「再発モデル」を確立する。脳梗塞マウス由来の一度抗原に暴露されているT細胞の応答を 検討する。脳梗塞によって脳組織から放出される抗原を同定する。TCRレパトアの解析や、脳組 織を破砕した脳組織液を含むメディウム内で抗原提示細胞とT細胞を共培養することにより、T細 胞の活性化・細胞増殖を調べる。活性化・細胞増殖を指標としてクロマトグラフィーなどで分画 し、最終的に質量分析計を用いて抗原を同定する。抗原が同定できれば、抗原を利用してマウス をあらかじめ免疫しておき、脳梗塞ワクチンの治療効果を検討する
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