研究課題/領域番号 |
16J30010
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡邊 美穂 北海道大学, 低温科学研究所, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 新規細菌 / 胞子形成 / 系統分類 |
研究実績の概要 |
本研究では胞子形成細菌の多様性を明らかにし、その進化過程の解明および分類体系の確立を目的とする。 1) 新規胞子形成性細菌の純粋分離株獲得と機能解析 本研究実施期間中に、新規の胞子形成硫酸還元細菌株1株を分離培養し様々な特性を検討した。その系統学的・生理生化学的結果に基づき、この細菌株を代表とする新属新種を提唱した(論文受理済)。このことにより、分類学的混乱が生じている既存系統の分類整理に関する新たな知見を得ることができる。さらにこの細菌株は、有害で難分解性である石油系炭化水素を嫌気的に分解する能力があることがわかった。胞子形成細菌群における石油系炭化水素の嫌気的分解についてはほとんど未解明であるため、この菌株はそれらの過程解明の一助ともなることが期待される。この細菌株に関しては国内外の菌株保存機関に寄託・公開しており、研究者は誰でも利用可能な状態である。 2)胞子形成細菌群Firmicutes門他系統との胞子形成および石油系炭化水素分解遺伝子の比較解析を進めていく予定である。の分類体系確立 Firmicutes門の中でも、Clostridium綱に属する分類群は最も大規模な分類整理が必要であると考えられる。とくに様々な解析から多くの系統的混乱の存在が示唆されているClostridium目の’Desulfotomaculum科’内について、集中的に分類体系の整理を試みた。この系統は分子生物学的な分類手法が確立されるよりも古い時代に設立されたものであり、現在に至るまでに単系統性が失われていることが示された。さらに、この系統は種の基準株が唯一の菌株保存機関にしかおかれていないものが相当数あった。このことから現在の国際細菌命名規約上再分類が不可能な状態にあるため、菌株の寄託手続きを行い、さらなる系統的解析を加えて分類体系の確立を目指している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に行った研究により、新属新種の胞子形成性硫酸還元細菌を得てその特徴を詳細に記載することができた。この新規細菌が属する系統は大変複雑であり、再検討すべき部分を非常に多く含んでいる。それに属する新規系統を設けることができたことは非常に重要な成果であり、今後行おうとしている大規模な分類学的研究の発展に大きく寄与するものとなる。今後もこの新規細菌を研究材料に加えてさらなる研究の展開が見込めるため、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後行うこととしては、以下の2つがあげられる。 1)’Desulfotomaculum科’に属する細菌のゲノム解析と再分類 本研究によって得られた’Desulfotomaculum科’の新規細菌の全ゲノム解析を行い、他系統との胞子形成および石油系炭化水素分解遺伝子の比較解析を進めていく。またゲノム会席により得られたリボソームタンパク質などの重要な系統学的指標の情報を用い、’Desulfotomaculum科’に属する細菌の大規模な系統解析を行ってその分類体系の確立を行う。 2)胞子形成細菌群における新綱細菌HC45株に関する機能解析 非常に顕著な多形性を示す本株の形態決定にかかわる要因は、現在までにつきとめることができていない。さまざまな条件での培養を行い、形態のあきらかな変化が起きる点をさぐる。またこの株は独立栄養的に生育できる可能性があることがゲノム上の情報からわかっているため、その培養試験も行う。
|