研究課題/領域番号 |
16J40019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荻原 麻理 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 幼虫休眠 / 卵休眠 / 蛹休眠 / エクジステロイド / カイコ / オオワタノメイガ / エクジステロイド生合成酵素 |
研究実績の概要 |
本年度は卵で休眠するカイコガおよび幼虫で休眠するオオワタノメイガについて、エクジステロイド・生合成酵素の遺伝子発現について解析した。 カイコの卵では、エクジステロイド脱リン酸化酵素(EPPase)の働きにより母親由来のエクジステロイドリン酸抱合体が活性型になると考えられている。また、胚自身がエクジステロイドを生合成する場合は、7つのエクジステロイド生合成酵素(以下生合成酵素)が必要である。EPPase及び生合成酵素の発現を休眠・非休眠卵で比較した結果、休眠卵ではEPPase及び、5つの生合成酵素の遺伝子発現が低く留まっていた。また、LC-MS/MSを用いた解析から、非休眠卵ではエクジステロイドが検出されず、エクジステロイドの初期中間体である7-デヒドロコレステロールが一定量に留まることも明らかになった。以上の結果から、カイコの胚ではEPPaseによるエクジステロイドの活性化及び胚自身のエクジステロイド生合成が共に抑制されると考えられる。ヨトウガ(蛹休眠)では、生合成組織で発現する全ての生合成酵素の発現低下が見られたが(本年度論文発表)、休眠卵では2つの生合成酵素の発現は非休眠と同様であったことから、休眠タイプごとにエクジステロイド生合成抑制機構が異なることが示唆される。 また、オオワタノメイガ(幼虫休眠)を野外から採取し、継代飼育してステロイドの解析および生合成酵素の遺伝子同定を行った。休眠・非休眠幼虫の血液中のエクジステロイド量を比較した結果、休眠幼虫では発育に伴うエクジステロイド量の増加が見られなかった。よって、幼虫休眠でもエクジステロイド生合成が抑制されると考えられる。また、エクジステロイド生合成酵素遺伝子の同定を試み、生合成酵素のSpookについて成功した。今後他の酵素の遺伝子の同定を進めるとともに、休眠・非休眠幼虫における発現量の比較を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はほぼ計画通り、異なる休眠タイプごとに、休眠・非休眠時のエクジステロイド量の比較を行い、卵・幼虫・蛹休眠の全てのタイプにおいてエクジステロイド生合成が抑制されていることを明らかにした。幼虫休眠のオオワタノメイガについては、野外からの採取や飼育状況を整えることに時間がかかったため、一部の酵素の同定にとどまっている。しかし、カイコガにおけるエクジステロイド生合成酵素の発現比較を先行して進め、卵休眠時に発現が低下する生合成酵素について特定することができた。よって、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度同定できなかった幼虫休眠タイプのオオワタノメイガについて、生合成酵素の同定及び休眠・非休眠幼虫での比較を行う。昨年の知見を生かすことで、本年度はスムーズに飼育や系統化が可能と考えられる。本年度も引き続き、遺伝子の同定と休眠・非休眠時の生合成酵素の遺伝子発現比較を行う。 昨年度までに、休眠時に遺伝子発現が抑制される酵素について絞り込むことができている。これらについて、モデル昆虫であるカイコを利用し、転写制御因子の探索を進める予定である。
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