本年度は卵で休眠するカイコについて、休眠卵・非休眠卵のステロイド、生合成酵素の発現量を解析し、休眠中のエクジステロイド生合成のダイナミズムを明らかにした。 質量分析計(LC-MS/MS)を用いてステロイドを解析し、卵には7-デヒドロコレステロール、2-デオキシエクジソン(2dE)、活性型の20-ヒドロキシエクジソンが含まれること、また、その量は非休眠卵より休眠卵で少ないことを明らかにした。休眠卵ではエクジステロイド生合成の複数の過程に休眠時特有の制御がかかると考えられる。 また、休眠卵の発生が停止する時期(産下後3日ごろ)までのエクジステロイド生合成関連酵素の遺伝子発現量を解析した。休眠卵では複数の生合成関連酵素の遺伝子発現量が上昇せず、非休眠卵との差は産下48-60時間目で顕著になった。また、エクジステロイド生合成を制御するペプチドホルモンについても休眠卵と非休眠卵で発現パターンを比較した。生合成を正に制御するペプチドホルモンについては休眠卵・非休眠卵の間で発現パターンに差は見られなかったが、生合成を負に抑制するペプチドホルモンは非休眠卵よりも休眠卵の発現上昇が早く、産下48時間までに休眠卵・非休眠卵で差が見られた。よって、休眠卵におけるエクジステロイド生合成の制御は、抑制性ペプチドホルモンによる生合成酵素の転写抑制であると考えられ、その制御は発生停止の1日ほど前から開始すると推測される。 今後、抑制性のペプチドホルモンについて、RNAiを用いた機能抑制やゲノム編集技術を利用したノックアウトカイコを作出することで、休眠におけるエクジステロイド生合成制御機構の全容が明らかになると期待される。
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