研究課題/領域番号 |
16J40025
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松崎 寛子 日本大学, 文理学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 児童文学 / 比較文学 / 台湾文学 / 文化越境 / 日米台比較文学 |
研究実績の概要 |
現在、台湾の児童文学が、どのように発展していき、どのような方向へ向かっていくかを中心に研究・調査を遂行している。児童文学は、戦後直後の台湾において、児童に対して、中国語を取得させながら、国家アイデンティティを形成させる目的があった。しかし、1980年代後半から、台湾民主化運動に伴って、台湾本省人作家による児童文学作品が登場するようになる。その代表作家が鄭清文と黄春明である。各時代の台湾作家たちが、児童文学を通して、どのように次世代を担う子供たちに、「国家」に対する想像を創造させようとしたのか、検討した。 1980年代以降を代表する児童文学作家には、鄭清文と黄春明が挙げられるが、戦後台湾初期を代表する児童作家には、林海音が挙げられる。彼女は、台湾本省人でありながら、中国語を外省人と同等に操れることで、台湾文学界、及び台湾における国語教育界において重要な地位を占めることになった。一方、台湾の新聞『聯合報』の文学欄『聯合副刊』の編集者も務め、戦後、外省人作家で占められた文学界に多くの台湾本省人が活躍できるよう、積極的に本省人作家の作品を紹介してきた。鄭清文は台湾大学を卒業し、政府系の銀行に勤めながら作家活動を続けた、所謂、台湾本省人エリート作家と言えるが、黄春明は多くの職業を転々としながら作家活動を続けて行き、後に台湾の「郷土文学」を代表する作家として知られるようになった。彼らは共にヘミングウェイ、フォークナー等のアメリカ文学の影響を受けていると述べている。ただし、鄭清文は日本語訳、及び英語で外国文学を受け入れる一方、黄春明は中国語訳で外国文学を受け入れた。 林海音、鄭清文、黄春明と異なったバックグラウンドを持つ、台湾を代表する児童文学作家を分析することで、台湾における児童文学の系譜がどのように形成されていったかを考察することを中心に研究を遂行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
児童文学という視点から戦後台湾文学研究を進める利点として、作家が時間軸の延伸性を意識して創作する点に注目することで、台湾文学の歴史性・時代性・先駆性を連続的に考察できることが挙げられる。本研究はその点で、着実な成果を上げていると言える。具体的に言えば、ハーバード・イェンチン図書館やニューヨーク州立大学図書館で台湾児童文学に関する貴重資料(戦後台湾早期の『国語日報』記事や国語教科書に掲載された児童文学等)を調査して、戦後台湾児童文学に対する知見を一層広げた点が高く評価できる。またDavid Der-Wei Wang教授及びE.K Tan教授等、アメリカの東アジア文学研究者と交流を深めて、日本・台湾・アメリカという大きな学術空間の中で研究を進めることができたことも成果にあげられる。口頭発表や学術誌への論文投稿も積極的に行い、"Remembering and Forgetting Taiwanese Women: The Colonial Memory and Gender Representation in Tzeng Ching-wen’s novel, Yamatonadeshiko (the Japanese Women)”、“Play the Violin for the Hope”: The Collective Memories, Imagined “Hometown” and Ecoambiguity Represented in Xing Jiahui’s Children’s Literature"、「鄭清文中編小説「大和撫子」におけるジェンダーと被植民をめぐる記憶」等を国内外の学会で口頭発表した。2020年夏には今までの研究の集大成として東方書店から『鄭清文とその時代』を刊行し、着実な研究成果をあげている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き林海音(1918-2001)、鄭清文(1932-2017)、黄春明(1935-)三作家と日本及びアメリカ文学の影響を中心に、アメリカおよび台湾のアーカイブ資料に関してフィールドワークを行い、その成果を国内・海外の学術会議で口頭発表を行う。 アメリカでは、ハーバード大学イェンチン図書館・ニューヨーク州立大学図書館等にて一時資料を入手しながら、ハーバード大学及びニューヨーク州立大学において当地の研究者や外国人客員研究員と意見を交換し研究を進める。台湾では、台湾大学図書館、国家図書館、国立台湾図書館、国立編譯館教科書資料センター及び国語日報社資料室等で一時資料の調査を行う。各作家の作品が採用された台湾の小学「国語」教科書、中学「国文」教科書及び高校「国文」教科書を、当時の政治状況や教育政策、社会背景も考慮しながら研究する。 また、ハーバード大学イェンチン図書館で収集した一次資料を元に、林海音のワシントン公式訪問、米国国務院における登録、米国議会図書館の児童図書部門と中国語図書部門視察の軌跡について調査を行う。鄭清文のサンフランシスコにおけるアメリカ体験、黄春明のカリフォルニア大学における講演の記録を調査する。 コロナ感染の拡大で現地調査が難しい場合は、オンラインで公開されているアーカイブ資料を利用し、オンラインによるインタビュー調査や海外各地の研究者達と研究打ち合わせを行う。 以上の調査、分析を元に、得られた成果を取りまとめ、学会報告を行う。
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