現在、台湾の児童文学が、どのように発展していき、どのような方向へ向かっていくかを中心に研究・調査を遂行している。児童文学は、戦後直後の台湾において、児童に対して、中国語を取得させながら、国家アイデンティティを形成させる目的があった。しかし、1980年代後半から、台湾民主化運動に伴って、台湾本省人作家による児童文学作品が登場するようになる。その代表作家が鄭清文と黄春明である。各時代の台湾作家たちが、児童文学を通して、どのように次世代を担う子供たちに、「国家」に対する想像を創造させようとしたのか、検討した。 1980年代以降を代表する児童文学作家には、鄭清文と黄春明が挙げられるが、戦後台湾初期を代表する児童作家には、林海音が挙げられる。彼女は、台湾本省人でありながら、中国語を外省人と同等に操れることで、台湾文学界、及び台湾における国語教育界において重要な地位を占めることになった。一方、台湾の新聞『聯合報』の文学欄『聯合副刊』の編集者も務め、戦後、外省人作家で占められた文学界に多くの台湾本省人が活躍できるよう、積極的に本省人作家の作品を紹介してきた。鄭清文は台湾大学を卒業し、政府系の銀行に勤めながら作家活動を続けた、所謂、台湾本省人エリート作家と言えるが、黄春明は多くの職業を転々としながら作家活動を続けて行き、後に台湾の「郷土文学」を代表する作家として知られるようになった。彼らは共にヘミングウェイ、フォークナー等のアメリカ文学の影響を受けていると述べている。ただし、鄭清文は日本語訳、及び英語で外国文学を受け入れる一方、黄春明は中国語訳で外国文学を受け入れた。 林海音、鄭清文、黄春明と異なったバックグラウンドを持つ、台湾を代表する児童文学作家を分析することで、台湾における児童文学の系譜がどのように形成されていったかを考察することを中心に研究を遂行した。
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