研究課題/領域番号 |
16J40041
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
鵜頭 理恵 千葉大学, 大学院工学研究院, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 肝細胞 / 組織工学 / コラーゲン / 3次元培養 |
研究実績の概要 |
本研究は,創薬研究やバイオ人工肝臓等に利用できる肝細胞の3次元培養のための基盤技術を確立することを目的とし,生体の肝臓内における肝細胞の機能発現を,生体外においてより忠実に再現できる3次元培養系の構築を目指している。平成28年度は,マイクロ流路技術を用いた液滴形成技術を応用することで作製した微小コラーゲン粒子およびヒト肝癌細胞株であるHepG2細胞を用いて,複合型3次元肝組織を作製し機能解析を行った。しかしながら,HepG2細胞は初代肝実質細胞と比較して欠損している機能も多く,実際の創薬研究においてほとんど使用されていないことから,生体から分離した肝細胞を用いて同様の結果が得られるかどうか検証する必要があった。 平成29年度は,動物実験を行うことのできる環境を整え,ラットから肝細胞分離を行い,実験に使用した。最初に,微小I型コラーゲン粒子を作製し,培養中で溶解が進まないように,ゲニピン架橋を行った。ゲニピン架橋は,グルタルアルデヒド架橋などの他の架橋法と比較して,HepG2細胞の機能の向上に寄与していることが期待されている。続いて,得られた微小コラーゲン粒子とラット肝細胞の混合培養を行い,シート状の複合型3次元肝組織を作製したところ,微小コラーゲン粒子を混合して培養を行った場合には,3次元組織内に適度な空隙が見られ,組織の中心部まで栄養分と酸素が拡散し,組織の中心部でも壊死が認められないという利点が認められた。また,培養7日目に培養液中へのアルブミン分泌量をElisaで測定したところ,通常の3次元培養と比較して,アルブミン分泌量が有意に増加していることが明らかとなった。これらの結果から,微小コラーゲン粒子との混合培養は,肝細胞機能の向上に寄与する可能性が示唆された。今後は,機能解析を詳細に行い,I型コラーゲン粒子のサイズ・種類・導入量などの至適条件の探索を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,当初の予定通り,動物実験を行うことのできる環境を整え,ラットから肝細胞分離を行い,微小コラーゲン粒子を内包した複合型3次元肝組織の作製に使用した。HepG2細胞だけでなくラット肝細胞でも微小コラーゲン粒子と混合培養を行うことで,肝機能の向上が認められた。微小コラーゲン粒子は、肝細胞機能の向上・維持に寄与していると考えられ、作製した組織体をマイクロ流路に組み込むなどの応用が可能になった。これらのことから,研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,平成29年度と同様に微小コラーゲン粒子およびラット肝細胞を用いて複合型肝組織体の形成を行いつつ,肝細胞機能の向上・維持を可能とする微小コラーゲン粒子のサイズ・種類・導入量などの至適条件の探索を行う。しかしながら,上述の微小コラーゲン粒子は,酢酸メチル溶液でI型コラーゲンを凝集させる方法を用いて作製するために,生体内と同等のコラーゲン線維構造が認められない。また,物理的強度が非常に高いという特徴がある。I型コラーゲンの線維化状態や硬さは肝細胞の機能に影響を与えることが報告されているため,より生体に近い微小コラーゲンを作出する必要性がある。そこで、次年度は線維化を伴った断片化I型コラーゲンファイバーの作製を行う予定にしている。また,得られた複合型3次元肝組織を初年度に設計したマイクロ流路内に集積化し,酸素濃度を制御した状態において潅流培養を行う。細胞機能に影響を与える重要なパラメーターとして,流速・初期酸素濃度・チャンバー形状・細胞導入量を変更しそれぞれ評価することで,部域特異性が実現するかどうか評価したいと考えている。
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