イネの最重要病害であるいもち病菌の防除には、抵抗性品種の育種・導入が必須である一方、 その抵抗性を回避して感染する病原力の理解が不可欠である。また、菌根菌は植物の根に共生し、養分交換により宿主植物と相利的な関係を保持する。本研究では、根への人工接種かが可能なイネいもち病菌と共生菌である菌根菌との感染戦略の類似性に着目し、菌根菌の感染機構を明らかにする。特に、病原菌と共生菌における植物由来シグナルの認識を介した植物組織侵入メカニズムを明らかにする。 イネOsRAM2の機能解析のため、先に、CRISPR/Cas9発現ベクターを用いてイネOsRAM2変異体を作出した。本年度は、イネOsRAM2変異体を用いて菌根菌を接種し、菌根菌感染時におけるイネOsRAM2の機能を解析した。菌根菌Rhizophagus irregularis胞子懸濁液を野生型およびOsRAM2変異体イネ実生に接種し、チャンバーにて生育させた。4週間後、各個体の根をWGA-FITCを用いて染色し、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。その結果、OsRAM2変異体では、菌足(Hyphopodium)、内生菌糸、樹枝状体の形成率が野生型イネ個体と比較し顕著に低下し、明らかな菌根感染率の低下が確認された。 感染過程のより詳細な観察のため、イネいもち病菌GFPラベル株を作出した。イネいもち病菌にGFP恒常発現ベクターを形質転換した。得られた形質転換体をイネに接種し、野生株と同等な病原性を保持していることを確認した。野生型およびOsRAM2変異体イネ実生を滅菌土壌に移植し、イネいもち病菌GFPラベル株の胞子を接種した。2週間後、イネいもち病菌の感染を共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ、OsRAM2変異体ではイネいもち病菌の感染も低下することが明らかとなった。
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