研究課題
本研究では、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング(MALDI-MSI)により植物組織内におけるステロール群の代謝動態を直接的に捉えると共に、表現型や転写プロファイルの統合的解析により、ステロールが制御する生理機構を理解することを目的としている。そのため本年度は以下に示した実験を試みた。①MALDI-MSI試料調製法の開発 MALDI-MSIでは組織における対象化合物の検出(イオン化)を補助する低分子化合物(マトリックス)の塗布条件の選択が、実験結果に大きな影響を与える。マトリックス塗布法としてスプレーコーティング法、蒸着法が汎用されているが両者は検出感度・空間分解能・実験の再現性に関して互いに長所・短所を有する。この技術的ボトルネックを解決するべく、マトリックス塗布方法の最適化を試みた。組織試料として発芽後2週間のシロイヌナズナ葉、マトリックスとして低分子代謝物の分布解析に有用である9-aminoacridineを使用した。従来の蒸着法に加え、蒸着後に有機溶媒を用いたマトリックス再結晶化処理を行うことにより内在性代謝物の高感度かつ再現性の高いイメージング結果を取得する手法を開発した。②シロイヌナズナ葉のMALDI-MSI 植物ステロールを検出できるマトリックスの探索を行ったが、現段階では複数種のステロールを同時に検出可能なマトリックスを見出すには至っていない。しかしながら、試料調製法を最適化する過程で上述の9-aminoacridineを用いることにより、複数種のグルコシノレート(GSL)の分布様式を可視化することに成功した。この方法を用いて、生育条件に応じたGSL蓄積の時空間的変化を捉えるべく、光条件の違いがGSL蓄積と組織内分布におよぼす影響を解析した。連続光条件下で生育させたシロイヌナズナに一定期間の暗処理を行った試料をMALDI-MSIに供した。
2: おおむね順調に進展している
当初、予定していたシロイヌナズナ葉におけるステロール分布の可視化には至っていないが、MALDI-MSIの実施例が少ないシロイヌナズナにおいて、内在性代謝物の蓄積様式を高感度かつ再現性良く可視化できる条件を見出したため。
MALDI法におけるステロールの検出方法として、ステロールの構造類似体であるステロイドの組織上誘導体化法を応用すること、またマトリックスを混合使用することにより、ステロール分布を可視化する実験条件の整備を目標とする。またGSLについては今年度得られた結果をもとに、暗処理を行った試料より抽出液を採取し、GSL・含硫黄代謝物定量解析を行う。また、GSL生合成・分解に働く遺伝子発現解析を行うことにより、光条件の違いによるGSL量の調節機構についての解析を進める。
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Toxins
巻: 10 ページ: 1-15
10.3390/toxins10010019