研究課題/領域番号 |
16J40093
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
仁木 千晴 東京女子医科大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 認知・遂行機能課題 / 脳腫瘍 / 脳画像解析 / 高次脳機能障害 |
研究実績の概要 |
脳損傷後の認知機能の変化を捉えるために昨年度、開発した言語性記憶、精神運動速度、抑制機能などの5つの認知カテゴリーを網羅した認知課題バッテリーを脳腫瘍の摘出前と6ヶ月後に同一の患者に施行して課題の成績を解析した。その結果、術前と比較して術後6ヶ月後において言語性記憶、精神運動速度、即時記憶、言語の流暢性及び抑制課題の各下位課題において成績が有意に低下していた。さらに、上記課題に共通する認知因子を分析するため、課題の成績に対して因子分析を行なった。その結果4因子が見出された。一つ目は精神運動速度、数唱(順唱、逆唱)に共通する因子であり、即時記憶的役割を担う機能であると考えられた。二つ目は、言語記憶課題と単語の流暢性に共通する因子で、短期記憶と長期記憶間の言語的処理プロセスであると考えられた。3つ目は注意の切り替えに関する因子、そして4つ目は抑制機能に関する因子であると考えられた。以上のように、複数の認知課題に対して影響を及ぼす認知因子が明らかにされた。次に、共通する認知因子に関連する脳部位を明らかにするため、Voxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)を用いて関連脳部位の解析を行った。その結果、精神運動速度と数唱(順唱、逆唱)に共通した第一因子については左上側頭葉から左頭頂葉の関与が、次に、言語記憶課題と単語の流暢性に共通する第二因子については、左島回を中心とした領域に、抑制機能に関する第四因子については左前頭葉内側面の関与が明らかにされた。また、遂行機能課題を施行した所、左右前頭葉脳腫瘍摘出患者において系列行為エラーが観察された。以上の研究結果については、Society for Neuroscienceや日本神経心理学会をはじめとする国内外の学会・研究会にて研究発表がなされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、「認知・遂行機能課題に共通する認知因子の同定と関連脳部位の同定」である。この計画に対して、本研究において21例の患者を対象に行動データの収集がなされ、その内16例の行動および脳画像データの分析がなされた。その結果、左脳腫瘍患者例において、言語性記憶や言語の流暢性、抑制課題といった言語の処理に関連する機能の低下が脳腫瘍摘出後6ヶ月後においても見られることとが示され、一方、課題の切り替えは術後6ヶ月後で回復することが示された。さらに、上記課題に共通する認知因子を分析するため、因子分析を行なった。その結果4因子が見出された。一つ目は精神運動速度、数唱(順唱、逆唱)に共通する因子であり、即時記憶的役割を担う機能であると考えられた。二つ目は、言語記憶課題と単語の流暢性に共通する因子で、短期記憶と長期記憶間の言語的処理プロセスであると考えられた。3つ目は注意の切り替えに関する因子、そして4つ目は抑制機能に関する因子であると考えられた。以上のように、複数の認知課題に対して影響を及ぼす認知因子が明らかにされた。次に、共通する認知因子に関連する脳部位をVoxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)を用いて解析を行った結果、精神運動速度と数唱(順唱、逆唱)に共通した第一因子については左上側頭葉から左頭頂葉の関与が、次に、言語記憶課題と単語の流暢性に共通する第二因子については、左島回を中心とした領域に、抑制機能に関する第四因子については左前頭葉内側面の関与が明らかにされた。また、遂行機能課題を施行した所、左右前頭葉脳腫瘍摘出患者において系列行為エラーが観察され、系列行為課題の遂行機能障害が見出された。これらは、Society for Neurosience 2017を始めとする国際・国内学会で発表がなされ、現在論文投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
系列行為課題の患者データが不足しているので前年度にひきつづき行動データを収集し、分析するとともに、責任病巣と関与する認知メカニズムを解明する為に脳画像データの分析を行っていく。さらに、基礎的認知課題の結果と遂行機能課題の行動データに対して、どの機能がどのように影響をしあっているのかを明らかにしていく。具体的には、遂行機能のさまざまな行為エラー(ディストラクターエラー、ステップの順序エラー、ステップの削除エラー)と認知機能の障害がどのように関連しているのか、共分散構造分析(Structural Equation Modeling: SEM)を用いて多変量解析していく。例えば、ディストラクターエラーの生起に認知障害として基礎的認知課題に含まれる抑制機能課題の成績の低下がどのように影響を及ぼしているかなど、遂行機能障害と基礎的認知機能障害の関連性を明らかにしていく。次に、遂行機能課題の行為エラーと責任病巣についてVoxel-based lesion symptom mapping法を用いて明らかにしていく。これまで左右いずれかの前頭葉に脳損傷がある患者が遂行機能課題において行為エラーを示してきたため、重点的に分析していく脳領域は左右の前頭葉である。脳損傷前のデータ収集が可能な前頭葉脳腫瘍患者を対象として、術前後に認知・遂行機能課題を施行し、エラーの増減もしくは課題の取り組みに対する質的(内容)変化の解析を行っていく。特に、前頭葉内側面、外側面、前方後方領域の損傷部位の違いによってどのような変化が術前後で生じたのかを明らかにしていく。最終的には前頭葉を中心として遂行機能とそれに含まれる認知・遂行機能に関する脳機能ネットワークを作成する。これら結果については国際・国内学会への発表も積極的に行っていくとともに、国内外の学術誌に発表をしていく。
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