研究課題
骨肉腫は若年者に好発する骨原発悪性腫瘍であり、病早期から発生する肺転移を制御できるか否かが、生命予後を規定する。生存率の改善には、治療抵抗性肺転移に対する新たな治療が必要である。我々はこれまでに、Ink4a/Arfノックアウトマウスの骨髄間質細胞にc-MYCを過剰発現させ、悪性度の高い骨肉腫細胞AXTを樹立し、骨肉腫の病態に関する研究を行ってきた。AXT細胞をマウスに移植すると、類骨形成を伴う致死性の悪性腫瘍が形成され、高率に肺転移をきたすなど、ヒト骨肉腫の病態を反映する。腫瘍細胞が生き残るよう働くことのできる、腫瘍微小環境は、治療抵抗性のメカニズムとして着目すべきものである。そこで我々は、化学療法によって微小環境にもたらされる変化が、骨肉腫肺転移において、残存腫瘍細胞の化学療法抵抗性を高めるのではないかとの仮説を立てた。AXT細胞を骨移植したのち肺転移を形成したAXT肺転移マウスを用い、以下の研究を行った。① ドキソルビシン・シスプラチン・メソトレキセート大量療法の併用による、ヒト骨肉腫の臨床治療に準じた三剤併用化学療法を、AXT肺転移マウスに施行した。過去の研究に先例はなく、多剤併用時の至適な薬剤投与方法を新たに確立した。② 無治療群および化学療法施行群のAXT肺転移マウスの肺転移組織を用いて、 サイトカイン発現のスクリーニングを行った。化学療法に伴って発現の変動した液性因子を同定した。③ 同条件の肺転移組織を用いて、 網羅的遺伝子発現解析を行った。化学療法後に優位に発現が上昇した遺伝子群を同定した。上皮系の悪性腫瘍において、治療抵抗性や微小環境を介した腫瘍の生存促進に関与するとの報告がある遺伝子も含まれていた。
3: やや遅れている
初年度の到達目標は、サイトカインのスクリーニング解析結果に基づき、化学療法により発現が上昇する液性因子の候補を絞ったうえで、機能解析を行い、残存腫瘍細胞生存に寄与する分子を同定することであった。しかし実際には、網羅的解析の結果、候補となる分子を複数同定するにとどまった。それは主に2つの点で、克服すべき課題が見出されたことによると考えられた。慎重な検討を要した点について以下に述べる。①in vivoでのスクリーニング実験において、残存病巣での反応を解析するという目的に至適なプロトコルを確立しなければならなかった。多剤併用化学療法剤の投与法および検体採取のタイミングを決定する必要があった。①については、生体を用いた研究であることから長期間を要したが、複数条件を繰り返し試行することで、肺転移に対しても一定の効果を有しながら、マウスに対する毒性の少ない投与方法を見出すことができた。過去の骨肉腫研究に類をみない、新たな手法を確立し得た。②化学療法により肺転移巣が縮小することで、微小環境由来の液性因子も総じて発現が減少した。その結果、化学療法により活性化する微小環境因子を同定することが困難となった。②については、液性因子のみでなく、微小環境構成細胞も含めた遺伝子発現の変動に着目すべく、 網羅的遺伝子発現解析を行った。治療抵抗性に関わる可能性のある複数の遺伝子において、発現が上昇することを突き止めた。その中には、サイトカインアレイで唯一発現が上昇した液性因子との関連が示唆される遺伝子も含まれた。治療抵抗性に関わる微小環境因子の同定は、本研究課題の根幹をなすプロセスであり、計画立案時より、困難を伴うことが予想されていた。当初の年次計画には遅れる形となったが、解析範囲を拡大するなどの方策で適切に対処できていると考える。
引き続き、治療抵抗性を担う微小環境因子の同定に関して、研究を進める。液性因子の変動については、条件を変更して再度解析を行う。具体的には、①初回化学療法後と2回目の治療後で反応が異なるのか、②化学療法施行後、数時間単位で肺転移組織を採取することで、時間経過に沿った発現変動はみられるのか、を検討してゆく予定である。また当該年度に施行した遺伝子発現・サイトカイン発現に関する網羅的解析で、血管新生に関わる分子の変動がみられたため、組織免疫染色を行い、微小環境に関わる細胞因子の構成が化学療法前後でどのように変化するのかを、解析する。上記の結果に基づき、in vitroの共培養や、適宜ex vivoの実験系を用いて、AXT細胞に治療抵抗性を供与する分子の同定を試みる。同時に、AXT細胞自身の薬剤耐性に関わる細胞内シグナルについても、in vitroでの解析を進める予定である。また、当該分子に対する阻害剤が市販されている場合、in vivoにおいて化学療法の奏功性が改善するかどうかの検討を早期に行うことを予定している。
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Molecular Cancer Therapeutics
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