研究課題/領域番号 |
16J40108
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山口 さやか 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 骨肉腫 / 化学療法 / 肺転移 / 微小環境 / 骨肉腫モデルマウス |
研究実績の概要 |
Ink4a/Arfノックアウトマウスの骨髄間質細胞にc-MYCを過剰発現させて樹立した、悪性度の高い腫瘍細胞AXTは、マウスに移植すると、類骨形成を伴う致死性・易転移性の悪性腫瘍を形成し、ヒト骨肉腫の病態を反映する。 骨肉腫の実臨床では、肺転移の制御が生命予後を規定するが、再発・残存病変に対する有効な治療は未確立であるため、治療抵抗性肺転移に対する新たな治療戦略の構築が必須である。 腫瘍細胞の生存を維持する働きを持つ腫瘍微小環境は、治療抵抗性を生み出す原因となりうる。そこで、化学療法に伴う微小環境の変化が、肺転移巣の薬剤耐性を高めるのではないかとの仮説のもと、AXTを骨移植し肺転移を形成したマウスを用い、本研究課題に取り組んだ。 肺転移マウスに抗癌剤を投与し、肺組織の遺伝子発現を解析したところ、NFκBを活性化する機能を持つ分子の発現が上昇していた。NFκBは、骨肉腫に対し促進的に働く分子であり、NFκBを介する細胞内経路を制御することが残存病巣の制御に有効である可能性が示唆された。 そこで我々はプロテアソーム阻害薬(PI)に着目した。PIはタンパク質産生の負荷が高い腫瘍に効果があり、多発性骨髄腫などの臨床治療に用いられている。類骨の産生が骨肉腫の特徴であること、またPIがNFκBを抑制することから、PIの骨肉腫に対する効果について検証を進めた。PIは、in vitro・in vivoでAXTに対する抗腫瘍効果を呈した。またPI投与後のAXT細胞では、NFκBの抑制・小胞体ストレスと酸化ストレスの上昇が確認された。PIは従来の抗癌剤と異なる作用機序を持ち、化学療法抵抗性分画に対する効果を期待できる。また、微小環境から腫瘍細胞に対し促進的に働き得る機構をも標的とする薬剤でもある。腫瘍微小環境の制御による骨肉腫治療に応用できる可能性につき、引き続き研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
化学療法後の肺組織における遺伝子・サイトカインの発現を網羅的に解析し、肺転移が治療抵抗性を獲得する上で鍵となる微小環境由来の分子を同定するという当初の計画に基づいて、結果の解析を進めた。パスウェイ解析、ジーンオントロジーエンリッチメント解析などの手法にて、治療抵抗性に関わる細胞内機構やシグナル伝達経路に着目して検索を行ったが、治療抵抗性形成に結びつくものを見出すことが困難であった。 発現解析の結果をもとに、着目すべき分子・シグナル経路を見出し、次の実験へと進展させる段階で難航した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の問題を解決するため、所属研究室の所有する既存薬ライブラリーを活用することとした。AXTに対し抗腫瘍効果を呈した化合物の中から、化学療法後の残存肺転移に有効と思われるものを絞り込むことを先行させ、プロテアソーム阻害薬に関する研究を開始している。プロテアソーム阻害薬のAXTに対する効果は強力であり、既存の細胞傷害性薬剤とは全く違う機序で抗腫瘍効果を発揮することから、化学療法抵抗性を獲得した残存病巣に対し、何等かの効果を持つことを期待している。また、本薬剤の作用機序として知られる小胞体ストレス、酸化ストレス、NFκB経路は、いずれも腫瘍微小環境と関連の深いものであり、本研究課題を遂行する上で着目すべきものである。 今年度は、in vitro, in vivoで抗癌剤耐性AXT細胞(腫瘍)の系を樹立し、それらに対するプロテアソーム阻害薬の効果を検討する。また、本薬剤がどのような分子メカニズムでAXTに抗腫瘍効果を呈するのかを明らかとし、その関与が示唆されるシグナル伝達経路について、特に化学療法抵抗性や微小環境との関連に注目して、in vitro, ex vivo(肺転移のslice culture)で研究を進めることとする。
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