研究課題/領域番号 |
16J40109
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
中嶋 裕子 浜松医科大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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キーワード | 核酸 / MALDI-IMS |
研究実績の概要 |
ラット眼球組織にチオ化DNAを局所投与して、質量分析イメージングを試みた。チオ化DNAの配列と構造は、核酸医薬品として世界で初めて承認されたfomivirsenと同様にした。まず初めにラットを三種混合麻酔(塩酸メデトミジン、ミタゾラム、酒石酸ブトルファノール)により鎮静させた。マイクロシリンジに33ゲージの針(先端部33ゲージ, 5 mm、基部28ゲージ)をつけて、硝子体に核酸を注入した。投与直後と投与30分後に眼球を摘出して、2% CMCに包埋して、凍結した。クライオスタットにて薄切切片を作製し、ITOスライドガラスに接着させた。有機溶媒で切片を洗浄した。10 mg/ mL HPA(溶媒;0.04 M ammonium citrate dibasic, 60% アセトニトリル)をTM sprayerを用いて塗布した。Rapiflexにて、測定を行った(ネガティブイオンモード、m/z 2000-6000、Deflection; suppress up to 1600 Da)。その結果、投与直後は、注入した眼球内の中央部分に核酸が多く局在していた。一方で、投与30分後には、眼球の辺縁部分に分布していた。質量分析イメージング測定した後のサンプルをHE染色し、網膜の場所を確認した。HE染色の顕微鏡画像と質量分析イメージングで得られたイオン像を重ね合わせてみたところ、投与30分後には、アンチセンス核酸の作用部位である網膜にまで到達していることがわかった。また、投与したチオ化DNAは、ヌクレアーゼによる切断は受けていないことがマススペクトルからわかった。投与30分と短い時間であったことと、硝子体は、比較的ヌクレアーゼが少ない部分であることだと考えられた。 本実験から、質量分析イメージングは、核酸医薬品の薬物動態解析へ利用できる可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、マウスおよびラットに化学合成した核酸を筋肉および眼球に局所投与して、凍結切片を作製し、組織切片の前処理法の検討を検討した。その結果、組織内から核酸を検出することに成功した。マトリクス塗布方法を検討することにより、イメージングにも成功した。MALDI法を用いた核酸の質量分析イメージングを世界で初めて論文発表できた。また、濃度の異なる核酸溶液を投与した組織切片から、定量的に強度の異なる質量スペクトルが得られた。これらの結果から質量分析イメージングは、核酸医薬の薬物動態を調べるために有用であることが示唆された。今回は、局所投与での検討であったが、今後は、全身投与して分布を調べることも可能であると考えられる。核酸医薬は、筋ジストロフィーの治療薬をはじめとして研究が盛んになってきている。ここ数年で5つの核酸医薬品が承認されている。オートラジオグラフィーに代わるイメージング法が確立できれば、より研究を加速できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにアンチセンス核酸をマウスおよびラットに投与して、組織切片を作成後、MALDI質量分析イメージングによる検出手法を確立した。標品により検出感度を調べたところ、内在性のmiRNAをそのまままの状態で検出することは、困難であることが分かった。そのため、核酸の塩基部を誘導体化して、よりイオン化効率を高めて、検出することを試みる。イオン化試薬には、イオン性官能基としての4級アンモニウム基を有する既報の試薬を用いる。グアニンとシトシンの塩基に特異的に結合する。有機溶媒により組織切片内の脂質などの脂溶性でイオン化しやすい化合物を洗浄した後に、誘導体化を行う。昨年度までに確立したマトリックス塗布条件、および測定条件を用いて測定する。 質量顕微鏡によるイメージングでは、分析対象であるmiRNAを分離精製できないことから絶対定量が難しいと考えられる。そこで、質量分析を用いたmiRNAの絶対定量法も同時に行う。miRNAの検出には、定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)法、マイクロアレイ、次世代シーケンサーによる大量解析が一般的に用いられている。しかしながら、これらの手法は、逆転写酵素によるcDNA (complementary DNA)への変換やPCRによる増幅、蛍光標識による増感といった間接的な検出法であり、RNAの変動を定性的に調べることはできるが、一つの細胞内にRNA分子がどのくらい存在しているかという定量性はない。こうした問題を解決した定量法が質量分析による直接的なmiRNA測定法である。既報の実験プロトコールに従ってmiRNAの定量を行う。精確な定量データと質量顕微鏡におけるイメージング結果を相互補完することで、イメージングの定量性の検証を試みる。
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