群集形成において初期移入者、移入者による環境改変作用の程度や質が重要な要素となる。本研究では、植物を環境とした植物と節足動物群集の相互作用系を新たなモデル系とすることで、植物の揮発性物質(香り)の情報性、食害誘導応答、履歴効果の視点から共存する近縁な植物上に、異なる節足動物群集が形成される過程と機構を明らかにすることを目的としている。 ヤナギ属植物6種のポット植えを用意し、植食者が移入する前の状況として、未食害植物の香りを捕集して分析・同定を行った。捕集した翌日に、ヤナギ林に隣接した圃場にポット植えの健全植物を置き、節足動物の初期侵入過程を1週間記録した。また、イヌコリヤナギ6個体を対象に、節足動物の種と個体数の記録を行うと同時に香りの組成についても2日に1度、25回という高頻度の時系列観測を行った。植物個体が放出する香りの複数成分の量を多変量と考えて、各個体間の香りブレンドの類似度をBray-Curtis距離を用いて計算し植物種間に違いがあるかどうか比較した。また、香りブレンドの類似度と節足動物群集組成の類似度の間に相関があるかどうかも解析した。その結果、植物の香り物質の組成・定着節足動物群集組成ともに、ヤナギ種間で差がみられた。しかし、両者の組成の間には有意な相関は見られなかった。また、最初に植物に移入してくる種(第一移入種)と香り物質の組成の間に関連がみられないことから、第一移入種の移入機構は植物の香り物質の組成ではない可能性が示された。その一方で、第一移入種の違いは定着群種組成の差には貢献していることから何らかの履歴効果の存在が示唆された。この履歴効果を生み出す機構の一つとして、第一移入種に食害を受けた誘導反応が、節足動物の移入及び群集形成に影響を及ぼしている可能性があることを考慮し、昆虫群集と香りの時系列データを組み合わせた時系列解析を行う予定である。
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