研究課題/領域番号 |
16J40178
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
光藤 崇子 九州大学, 大学院医学研究院, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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キーワード | 時間知覚 / 脳磁図 / 多感覚統合 |
研究実績の概要 |
採用第2年度目の目標は,時間知覚における感覚間相互作用を検証するために視聴覚同時呈示下で時間縮小錯覚のおこる最適な刺激条件を心理物理実験により確認し,刺激と実験プロトコルを決定し,脳磁図における脳活動計測を実施することであった。採用第1年度に設定した刺激の時間間隔は聴覚で時間縮小錯覚が起こる時間範囲であったが,この範囲は視覚の時間分解能では時間判断がしづらく,聴覚判断に大きく依存することとなるため,視覚と聴覚の錯覚のうちどちらかが生起し,かついずれのモダリティでも時間分解能的に時間判断可能な刺激時間範囲を再度選定し,心理実験および脳磁図計測を実施した。課題成績においては,視覚 ≒ 視聴覚となり,視覚において錯覚が起こりやすい条件下で視覚刺激に注意を向ける場合には時間判断および錯覚に及ぼす聴覚の影響は少ないことが示唆された。また,この結果はNagaike et al (2015)の報告した視覚における時間縮小錯覚結果とも一致した。領域内活動解析の結果,視覚のみの課題では一次・二次視覚野が,視聴覚同時呈示課題では視覚野および一次聴覚野において,刺激に同期して領域内の神経活動が高まっており,実験刺激の妥当性が確認された。また,TPJ, IFG, ACCにて刺激呈示中,ならびに呈示後に対応する時間帯で活動が見られ,先行研究同様に時間知覚に関連する脳領域に活動が見られることが示唆された。また,これまでに実施した聴覚における時間縮小錯覚を題材とした脳磁図(MEG)の測定データを解析し,時間判断時の脳活動は右半球優位であり,特に下前頭回および頭頂側頭接合部が時間判断に伴い活動が高まることが示された。これらの結果をまとめた論文がScientific Reportsに受理され,9月に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は9月末まで産休により活動を休止していたこともあり,当初予定していた実験の完了までには至らなかった。採用第1年度に設定した刺激の時間間隔は聴覚で時間縮小錯覚が起こる時間範囲であったが,この範囲は視覚の時間分解能では時間判断がしづらく,聴覚判断に大きく依存することとなるため,視覚と聴覚の錯覚のうちどちらかが生起し,かついずれのモダリティでも時間分解能的に時間判断可能な刺激時間範囲を再度選定しなおす必要があった。また,視聴覚同時呈示の実験環境を再整備するのに時間を要した。予備実験の結果をみると,実験が可能な環境は整備されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回設定した時間間隔においては,視覚における時間縮小錯覚が明確に生じることが明らかとなった。一方で視聴覚を同時呈示した場合には聴覚が視覚的な時間知覚(錯覚)に及ぼす影響があまり見られないことも示唆された。本研究課題では,複数モダリティを呈示することにより単一モダリティでの時間知覚が変化する事態において,単一・複数モダリティでの時間知覚時の脳活動の変容を捉えることを目指している。そのためには,複数モダリティ呈示によって錯覚の生起の仕方が変わる時間範囲を特定し,その時間範囲において脳磁図を測定する必要がある。聴覚は視覚と比べて時間分解能が高く,早い段階で感覚情報が統合されるため,聴覚が視覚の錯覚生起に影響を与えると考えられる(Shams, et al., 2000)。平成30年度は,まず,視聴覚統合処理によって視覚的錯覚の生起が聴覚により影響を受ける時間範囲を心理物理実験により決定したうえで,その時間範囲にターゲットを絞ってMEG計測を実施し,視聴覚同時呈示時の時間知覚処理における感覚間相互作用について検討することを目指す。
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