研究実績の概要 |
ABCA1は、善玉コレステロールとして知られるHDL 産生に必須の膜タンパク質である。我々はすでに、約70 % のABCA1分子がダイマーを形成して細胞膜上で静止すること、脂質受容体であるapoA-Iへ脂質を受け渡してHDLを産生するとABCA1ダイマーがモノマーに解離して拡散することを報告している。 しかし、このダイマー化の生理的意義は不明であり、ABCA1によるHDL産生機構には未解明な点が多い。平成29年度には、ABCA1以外のABCAサブファミリータンパク質に注目して解析を行った。すべてのABCAサブファミリータンパク質は特徴的なC末端領域をもち、この領域内のいくつかのモチーフはABCA1の機能に重要であることが報告されているが、詳細は不明である。そこで、ABCA1のC末端領域を、他のABCAサブファミリータンパク質11種類のC末端領域とそれぞれ入れ替えたキメラタンパク質を作成した。これらキメラタンパク質のapoA-I依存的なコレステロール排出活性を調べたところ、ABCA2, ABCA3, ABCA4, ABCA12, ABCA13とのキメラタンパク質が活性を保持していた。また、全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を用いた1分子イメージングによって、キメラタンパク質の細胞膜上での動態を解析したところ、ABCA4やABCA13とのキメラタンパク質は野生型ABCA1と同様に静止傾向を示した。以上の結果より、いくつかのABCAサブファミリータンパク質のC末端領域はABCA1のそれを代替できることが分かった。 さらに、他の複数のABCタンパク質をTIRF顕微鏡により観察した中で、細胞膜が細胞内部に鋭く陥入した管状膜構造体上に局在するABCタンパク質が存在することを新たに見出した。今後は、ABCタンパク質がこの管状膜構造体へ局在する生理的意義を明らかにする予定である。
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