研究課題/領域番号 |
16J40199
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 紅 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ABCA1 / コレステロール / HDL / ダイマー化 / ABCC6 / 細胞膜陥入 / ATP |
研究実績の概要 |
ABCA1は、善玉コレステロールとして知られるHDL (high-density lipoprotein) 産生に必須の膜タンパク質である。我々は全反射照明蛍光 (TIRF) 顕微鏡を用いた1分子イメージングによってABCA1分子の挙動を解析し、約70 % のABCA1分子がダイマーを形成して細胞膜上で静止すること、脂質受容体であるapoA-Iへ脂質を受け渡してHDLを産生するとABCA1ダイマーがモノマーに解離して拡散することを報告している。 ABCA1によるHDL産生機構をさらに詳しく解析するなかで、我々は他の複数のABCタンパク質についてもTIRF顕微鏡観察を行った。その中のひとつ、弾性線維性仮性黄色腫の原因遺伝子産物であるABCC6は、細胞膜、細胞内ベシクルに加えて、細胞膜が細胞内部に鋭く陥入した管状膜構造体上に局在することを見出した。ABCタンパク質のこのような陥入膜構造上への局在性についての報告はない。現在、ABCC6が管状膜構造体に局在することの生理的意義の解明を目指して研究を展開している。 平成30年度には、ABCC6の局在する管状膜構造体は、内在性BARドメインタンパク質PACSIN-2や低分子量Gタンパク質Rab8と一部共局在したことから、tubular recycling endosomeと呼ばれる膜構造と一部オーバーラップするものであることを明らかにした。また、この管状膜構造体はアクチン線維に沿って走っており、低張液処理により細胞膜張力を上昇させると破壊された。ABCA1はこの陥入構造体上に局在せず、同じABCタンパク質ファミリーのメンバーであっても、細胞膜陥入構造体に局在するものとしないものがあることが示唆された。今後、陥入管状膜構造体が形成される条件、されない条件を探り、両者で細胞外への基質排出量に差が出るかどうかを検討してゆく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ABCA1によるHDL産生機構にはいまだ不明な点が多いが、平成30年度は、ABCA1のみならず、他のABCタンパク質ABCC6へと研究を発展させた。ABCC6は弾性線維性仮性黄色腫の原因タンパク質として臨床的にも重要である。ABCC6が細胞膜陥入管状構造上に局在するという新たな発見は、ABCA1と複数のABCタンパク質を比較するなかで得られた予期しない結果であったが、我々は、このような細胞膜陥入構造は細胞膜の表面積を増やしてABCC6による基質の輸送効率を上げているのではないかという仮説をたてて解析を進めている。 TIRF顕微鏡を用いた1分子イメージングによって、ABCC6分子の細胞膜上での挙動を観察したところ、細胞膜平面上での1分子イメージングは、すでに実績のあるABCA1と同様に実施することができた。一方、陥入膜構造上での1分子レベルでの解析は困難であったが、線状のシグナルが伸張してゆくような様子を観察した。以上、ABCC6についての予期しない新たな展開も含め、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ABCC6の局在する細胞膜陥入管状構造が形成される条件、されない条件を探り、両者で細胞外への基質ATPの排出量に差があるかどうかを検討する。また、生細胞において、管状構造が伸張あるいは退縮してゆく過程を、BARドメインタンパク質やアクチンなどとの挙動とともに、共焦点蛍光顕微鏡やTIRF顕微鏡を用いて詳しく解析する。さらに、コレラトキシンやフィリピンなど各種脂質プローブを用いて、陥入膜構造の脂質分布についても解析を進める予定である。以上の計画推進により、ABCC6が細胞膜陥入管状構造体へ局在することの生理的意義を明らかにすることを目指す。
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