研究課題/領域番号 |
16J40210
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
浅田 美穂 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地震津波海域観測研究開発センター, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | プレート収束境界 / 海域泥火山 / 堆積物貫入機構 / 高精度音響観測 |
研究実績の概要 |
今年度の進捗状況は以下のとおりである: 1,海洋泥火山の実観測に基づくデータのプロセッシングを進め、これを解析し、研究協力者と密な議論の機会を設けて、年間を通して議論の発展と学術論文の執筆に注力した。執筆した論文を国際誌に投稿した。しかし投稿論文が先般リジェクトの通知を受けたので、出来るだけ速やかにこの論文を修正して、再び国際誌に投稿する意向である。 2,ドイツの調査船による研究航海に参加し、新たに船舶による音響観測データほか観測値を得た。本航海に参加した結果、平成28年度のうちに熊野海盆をほぼ網羅する音響データを取得できた。本航海で得た音響データのプロセッシングを終え、目下熊野海盆における広範な泥火山活動位置と活動度の把握に議論を展開している。 3,関連書籍の検索や地質関係者との対話を通して、現状の「泥火山」に関する一般的な理解についての情報収集に努めた。その過程で、英単語「Mud Volcano」の対訳として用いられている単語「泥火山」が、それの定義とは異なるイメージを一般的に持ちうることに気付いた:泥火山の定義は「地下から噴出する堆積物が形成する地形的特徴」であり、噴出の現象そのものを指すものではないが、理解は混在している。また日本語読みとしても「音・訓」が混ざって見られる。平成29年度中に日本地質学会から出版を目指している泥火山に関する特集号にこの問題意識を乗せるために、今後更に広範な情報収集とコンパイルに努める。 4,地球惑星科学連合大会(5月実施@千葉県)および日本地質学会(9月実施@東京都)にて「泥火山」セッションを提案および泥火山を冠する集会を設定し、関係者間の密な情報交換と泥火山コミュニティの拡大に努めた。この活動を通して、日本における泥火山コミュニティの形成と活性化および泥火山に関する知識の底上げに注力した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度には研究協力者の多大な協力を得て、泥火山観測データのプロセッシングと議論を集中して行い、学術論文をまとめることが出来た。研究協力者に仲介していただき熊野海盆泥火山観測に来日したドイツ船に乗船の機会を得て、RPD最終年度までに取得する予定であった熊野海盆ほぼ全域の音響観測データを、前倒して取得することが出来たのみならず、熊野海盆泥火山活動と同海域の地震活動を観測したデータなどにもアクセスが可能になった。投稿した学術論文がリジェクトとなったことが研究計画の遅延をもたらしたが、これは平成29年度早々の再投稿を目指し活動を継続している。 総じて、平成28年度の研究活動はおおむね順調に進行していると考える。平成28年度内研究活動の過程で泥火山の定義に当たるなど基礎情報の見直しと情報収集を進めた結果、「地下からのメッセンジャーである」と広く受け入れられている泥火山のイメージと、「地形的特徴(丘)である」とする泥火山定義との間に理解の乖離があると考えるに至ったので、これを正すべく平成29年度の研究活動に努める。
|
今後の研究の推進方策 |
残り2年度を含むRPD採用期間中に、当初より設定している研究目標は以下の通りである: 1,航海による直接観測で南海トラフを網羅する、分布を理論化する。 2,南海トラフ~琉球海溝を俯瞰する航海計画を立てる、実施する。 3,日本の海洋泥火山活動を説明しうる地質学的情報を多分野(地球物理、化学、土木など)から広く集積する。 4,日本国内に「泥火山」コミュニティを構築し、日本の泥火山研究を発展させる(地質学雑誌「泥火山」特集号の編集、学会セッション・シンポジウム・地質巡検の計画と実施、など)。 このうち1,と2,について、平成28年度航海で南海トラフ海域の殆どからデータを得たが、まだ南海トラフ~琉球海溝軸の観測が実現出来ていない。平成30年度内には次の航海を実施するべく、平成29年度前半に時間の許される限り観測企画を練る。同時に平成28年度に得たデータ解析を進め、南海トラフ海域の泥火山活動を俯瞰する議論に進める。このために、平成29年度中に国際誌に投稿したがリジェクトとなった論文を改めて国際誌に投稿するべく議論を詰める。上記3,と4,に記載した、日本国内泥火山コミュニティの活性化ほかについては、春のJpGU-AGU2017学術会議および秋の日本地質学会学術大会に関係セッションを提案し採択されており、継続して活動している。特に平成29年度は日本地質学会から泥火山についてレビュー論文を集める特集号を出版するべく、関係者と話し合いを進め、これの成功を最大の目標に据える。日本地質学会から泥火山に関する特集号を発刊することで、泥火山のより正しい知識の普及と日本の泥火山研究の発展に努め、今後さらに分野を超えた研究活動を展開することを目指す。
|