研究課題/領域番号 |
16J40214
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
SASAKI BOGNA AGNIESZKA 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 宮沢賢治 / 比較文学 / 神話 / 文学における空間 / 文学における動物 |
研究実績の概要 |
本研究の二年目は、対象となる作品とその他の文学作品の比較研究を踏まえながら、比較研究や、宮沢賢治における「場所」に関連する発表を行うとともに、研究の新しい方向性を探ってきた。 まず、初年度の国際シンポジウムで発表した際に取り上げた作家の一人であるW.フォークナーによる短編「熊」と、宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」のより丁寧な比較を行い、前年度に探った「場所」を中心にする文学理論を視野に入れながら、両作品を「死」のモチーフという観点から分析し、その研究結果を11月に行われた日本比較文学会の関西大会で発表した。 また、本研究に沿った領域の試みとしては、宮沢賢治の作品における「場所」の表現方法や、それに関係する弱者への眼差しの特徴についての分析に挑戦して、1月にアイルランドで行われた国際学会で発表をした。その際、特に宮沢賢治のイーハトヴという独特の空間においてよく登場する、孤独で弱い立場の者を描く宮沢賢治の手法の新鮮さに注目した。 文学理論などの人文研究は現代「空間」を意識するようになる(spatial turn)とともに、J.デリダなどの発表を機に、動物研究(アニマル・スタディーズ)の重要性も高まりつつある(animal turn)。宮沢賢治とW.フォークナーの作品は、両方の方向性を検討するうえで有効な材料であると判断し、今年度にその組み合わせが生み出す可能性を視野に入れて研究を進めることにし、現在のところ、その他の文学作品において、人間と動物の関係や、それはどのように社会問題と関連させられているかを調べつつ、宮沢賢治とW.フォークナーの作品をはじめとして、人間と動物の位置づけを分析するなど、地域の特色を踏まえた人間と動物のあり方を検討しているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度については、次の4つの点から研究を確実に前進させることができたと自己評価している。まず1、宮沢賢治の童話を比較文学的観点から考察した成果について日本比較文学会、また2、宮沢賢治の童話を「空間」の観点を取り入れた上で考察した成果についてTransatlantic Connections Conference 2018と、国内外の二つの場で発表することができたこと、それに加えて3、文献や資料の収集も順調に進行したこと、さらには4、新しい展開として「動物」という観点を導入したこと、以上の4点である。 本来計画していた「神話」概念に関する研究や、また研究成果の文章上の発表はやや遅れているものの、「場所」に関する理論、並びに新しい展開としてのアニマル・スタディーズの理論を取り入れることによって、本研究の課題をより充実させることになっており、当初の計画とは少々異なる方向で研究が進んでいるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、本研究のテーマである「神話」の概念、また「神話的空間」の位置づけを充足させ、本研究の課題にまとまりをつける方向へ進みながら、「神話」の観点から宮沢賢治の文学を考察することにより、日本近現代文学と海外文学の比較研究において、「神話」概念を分析概念として用いる意義を例証することを目指す。 現在までの研究成果に基づき、当初計画していたガルシア=マルケスの作品との比較よりも、時代的により近いなどの共通点が見られるフォークナーの作品との比較の方が現時点では有意義であるとの判断から、計画に修正を加えて、その方向性に力を注ぐ。また「神話的空間」に加えて、引きつづき文学における「場所」に関する理論をさらに深めながら、広い意味での「場所」の働きと役割という観点から作品を比較する作業を進め、宮沢賢治の童話の新たな可能性を探る。進行中の研究の発表、とりわけ論文掲載を目指して準備や執筆を進め、比較文学に係るイベントに参加する。 さらに、今までの研究の結果、宮沢賢治やフォークナーの作品における、神話的思考において重要な要素である「動物」の存在にも注目し、アニマル・スタディーズの理論を踏まえながら、動物と人間が共存する空間としての「イーハトヴ」をはじめとして、文学における「動物」の表象について「神話的空間」に関連させて考察を行う。そして、文学にかかわる範囲でのアニマル・スタディーズとその周辺を巡る諸問題を取り扱う目的で、シンポジウムの企画・運営に携わる予定である。
|