研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)はヘパドナウイルス科に属すDNAウイルスである。ヘパドナウイルスは魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類で報告されており、ウイルスと宿主の進化の歴史は数億年にも及ぶと考えられている。しかしながら、これらのウイルスがどのような分子メカニズムでそれぞれの宿主に対して適応進化を遂げ、宿主・細胞特異性の高いウイルスとなったかは不明である。HBVの感染トロピズムを規定する因子の一つであるHBV感染受容体として、sodium taurocholate cotransporting polypeptide(NTCP)が同定されているが、その立体構造は解かれておらず、ウイルス結合部位や薬剤標的部位の詳細については明らかとなっていない。一般的に、ウイルス感染受容体は宿主にとっても機能的に重要な役割を担うため、タンパク質全体は進化的に保存されている。一方で、ウイルスと結合する部位は進化速度が速いとの報告がある。このことは、ウイルス感染受容体の進化速度が速い部位を検出することにより、ウイルス結合部位の推定が可能であることを示唆している。しかしながら、NTCPは2012年に同定されたばかりであり、我々が知る限り、そのような進化学的解析の報告はまだない。本研究では、NTCPを系統学的に解析し、進化速度が速い部位を検出することで、HBVの侵入・感染に重要な部位を推定し、その意義についてin vitro実験系で評価した。その結果、ウイルス感染に必須であるNTCP部位を特定するに至った。
2: おおむね順調に進展している
1. データベースより哺乳類のNTCP配列を抽出し、PAML, RELおよびMEMEを用いて系統学的解析をおこなった。NTCPタンパク質は哺乳類全体で進化的に保存されていることが明らかとなった。これはNTCPノックアウトマウスを用いた研究において、NTCPが宿主の生存にとって重要であるという過去の報告と一致するものである。一方で、NTCP上に進化速度が速い部位が複数検出されたため、これらがウイルスの侵入・感染に与える影響をin vitroの実験系で評価した。2. 系統学的解析により推定された部位に変異を導入したNTCP発現プラスミド(pEF4-hNTCP-Myc-His)を構築し、HepG2細胞に発現させることで、NTCP変異体一過性発現HepG2細胞を作成した。3. HBVエンベロープペプチド(preS1)とNTCP変異体との結合親和性について評価するため、NTCP変異体発現HepG2細胞に20 nM TAMRA標識preS1ペプチドを30分間処理した。細胞を洗浄後、固定し、蛍光顕微鏡にて観察した。4. HBVをNTCP変異体一過性発現HepG2細胞に接種し、感染を免疫蛍光染色法によって評価した。系統学的解析により推定された部位が、HBVの侵入・感染に重要であることが示された。本研究成果は、ウイルス-宿主の共進化メカニズムの理解を深めるだけでなく、その知見はHBV生活環の理解や侵入阻害剤開発へとつながると期待される。
現在、本研究成果を学術論文として執筆中である。今後、今回同定されたNTCP上のアミノ酸部位が、HBV侵入阻害剤の標的となるか、より詳細に検証する。
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