ヒト胆道閉鎖症(BA)は、胆汁の鬱滞が原因で起こる肝外胆管炎や肝障害が特徴である難治性疾患で、特に胎児期に発症する胆道閉塞症に関しては、その病因や発症機序はほとんど分かっていない。BA患者の胆嚢組織は低形成などの形態異常を呈すため、ヒトBA患者の胆嚢における病態は今まで不明である。 Sry 関連HMG box遺伝子-17(Sox17)は、胆嚢を含む肝外胆管の形態形成のマスター制御因子であり、Sox17 +/-マウス胎子では、その発現量の半量低下により、妊娠後期に胆管上皮細胞の脱落と肝外胆管での炎症により胆管閉塞を誘発し、60%程度の個体でBAを発症する。 そこで、本研究はヒトBA患者での胆嚢を含む肝外胆管の病態についてSox17+/-マウスと比較するため、13人のBA患者とコントロール患者(CBDもしくはGBs)の胆嚢組織において、胆管上皮マーカー(SOX17、SOX9、DBA)および傍胆管腺マーカー(alcian blue、PAS)の免疫組織化学染色により胆嚢の病態を評価した。13人のうち5人のBA患者において、コントロール患者(CBDもしくはGBs)に比べSOX17の発現量の低下が認められた。また、BA患者の胆嚢において、コントロール患者に比べSOX9/ alcian blue二重陽性の傍胆管腺の増加が認められた。さらに、ほとんどのBA患者では胆嚢中部から頸部の上皮において、SOX17陰性/alcian blue 強陽性付近における上皮細胞の脱落が認められた。 以上の結果から、ヒトBA患者においてもSox17+/-マウスと同様に一部の胆嚢上皮でSOX17の発現低下が認められ、おそらく破綻している上皮を維持するためにSOX9/alcian blue 陽性の傍胆管腺が増加するという病態を辿る可能性が示唆された。
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