研究課題
本研究は、バキュロウイルスと宿主との遺伝子間でどのようなクロストークが行われているかを解析し,バキュロウイルス感染戦略の全貌解明を目指すものである.そのために、本研究ではインフォマティクス的手法による遺伝子の発現ネットワーク解析と、生物学的・生化学的手法による遺伝子の機能解析とを研究の両輪として進める。2016年度は、公開されているウイルス感染脳由来のトランスクリプトームデータを用い、発現プロファイルが類似した遺伝子を抽出する方法である対応分析法によるインフォマティクス解析を、ウイルス感染時のウイルス遺伝子に限定して行うことで、解析法の妥当性を探った。その結果、隣接する遺伝子同士や、これまでに相関が報告されている遺伝子同士に発現プロファイルの類似性がみられ、対応分析法が合目的であることが示された。一方、ウイルス感染において、宿主細胞内での遺伝子発現の発現量や発現量比に大きな変動がみられるステージは、感染最初期である。本研究では特に、細胞感染直後の侵入期に機能していると考えられる、ウイルス粒子の構造タンパク質に着目した。出芽ウイルスの構造タンパク質にはユビキチンが含まれるが、その機能や意義は未解明のままである。そこで、ウイルス粒子が細胞に侵入する際に、構造タンパク質としてのユビキチンがどのように機能するか、解析を行うこととした。まず、感染培養細胞上清から出芽ウイルスを精製し、抗ユビキチン抗体を用いてウェスタン解析を行った。その結果、出芽ウイルスに含まれるユビキチンは、分子量の異なる複数のバンドとして検出された。
2: おおむね順調に進展している
本研究を遂行するにあたり、インフォマティクス解析に関して初学者であったため、2016年度前半は特にコマンドラインを使った解析やプログラミングの手法の習得にも時間を割いた。その結果、トランスクリプトームデータのマッピングやアセンブルなど、一般的なインフォマティクス解析や、対応分析法を用いた解析が可能になった。また、当初はインフォマティクス解析からのデータを元に生物学的または生化学的な検証実験を行う予定であったが、インフォマティクス解析と平行してウイルス侵入期の構造タンパク質の機能解析に着手したことによって、データを双方向に利用する時期を早められる予定である。
2016年度は、ウイルス遺伝子の発現プロファイルの類似性を解析することで、対応分析法を用いる妥当性について検討し、合目的であることが示された。2017年度は、解析対象を宿主遺伝子にも広げ、宿主遺伝子とウイルス遺伝子との間で類似した発現プロファイルを示す遺伝子を探索する。また、インフォマティクス解析と平行して、細胞への感染の最初のステップである侵入期に機能するタンパク質を探索するため、出芽ウイルスの構造タンパク質の解析を進める。具体的にはタグ融合型ユビキチンの発現系を作製し、感染への影響をウイルスの増殖量や表現型を指標に機能解析を試みる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Genes & Genetic Systems
巻: 91(2) ページ: 111-125
doi:10.1266/ggs.15-00065