不満度を最小化する運搬経路問題について,昨年度本研究では,問題設定の一般化を行っていた.具体的には,ペナルティを払うことでサービス提供を行わなくても良い顧客の設定を行っていた.この条件は,従来の問題設定を表すこともできるため,問題は一般化されていることになる.したがって,昨年度本研究で示したAPX困難性は,この一般化された問題設定においても成り立つ.これは,近似スキーム(PTAS)を構成することが,一般のグラフに対しては難しいことを意味する.なお,この近似困難性は,バスの台数を定数としても成り立つ. そこで本年度は,バスの台数を定数に限定しグラフ構造を木とした場合に対し,近似アルゴリズムの開発を行った.具体的には,一般化された問題設定に対しても完全近似スキーム(FPTAS)の開発に成功し,本研究の初年度に開発したFPTASを一般化することに成功した.完全近似スキームは,近似解の精度の意味では,最良の近似アルゴリズムとされる. 本研究で行ったFPTASの開発手法は次の通りである.まず,昨年度得た擬多項式時間アルゴリズムのアイディアを詳細に解析した.次に,従来の問題設定であれば利用できたFriggstadらの結果に代わる手法として,貪欲的に経路を1つ選択するアルゴリズムを開発した.最後に,これらのアルゴリズムと丸め手法を組み合わせることで,FPTASを開発した. この他にも,グラフ構造を用いたアルゴリズムの開発として,グラフの(リスト)点彩色,最大重みbマッチング,多種多様な部分グラフの遷移問題に対するアルゴリズムや,グラフのb辺支配集合アルゴリズムなど,様々なアルゴリズムの開発に成功し,それらの解析も行った.
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