量子計算モデルの能力の解析および量子コンピュータシミュレータの開発を行い,以下に示す結果を得た. 量子コンピュータの能力の理論的な解析を行う上で,量子計算モデルに非常に近い性質を持つaffineカウンタオートマトンに着目した.その上で,affineカウンタオートマトンが,対応する古典決定性モデルよりも能力が高いことを,プロミス付き問題を用いて示した.つまり,affineカウンタオートマトンで解くことができるが,決定性カウンタオートマトンでは解くことができないプロミス付き問題が存在することを示した. さらに,ガーベッジ付き量子プッシュダウンオートマトンと呼ばれる計算モデルについての解析を行い,ガーベッジ付き量子プッシュダウンオートマトンでは誤りなしで解くことができるが,決定性プッシュダウンオートマトンでは解くことができないプロミス付き問題が存在することを示した.この結果は,量子計算モデルが古典計算モデルよりも能力が高いことを示すものである. 他にも,古典計算機の能力に関して,実数を出力する際の領域計算量の解析を行い,有限オートマトンを含め,使用できるメモリ領域に制約がある際に計算可能な実数の特徴を明らかにした. 量子コンピュータシミュレータに関する研究については,まず,GPGPUを用いた汎用量子コンピュータシミュレータの開発を行った.さらに,HHLアルゴリズムと呼ばれる連立方程式を高速に解く量子アルゴリズムの高速なシミュレータアーキテクチャを開発した.HHLアルゴリズムは様々な量子アルゴリズムのコアとなりうるアルゴリズムである.特に,量子機械学習への応用が提案されており,本研究の目標の一つである「理論的な解析が困難な量子アルゴリズムを実験的に解析する」ことへの適用が可能である.
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