研究課題/領域番号 |
16K00012
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小川 朋宏 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00323527)
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研究分担者 |
長岡 浩司 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (80192235)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 情報スペクトル / エントロピー / ダイバージェンス / 通信路符号化定理 / 情報幾何 / 双対接続 / エンタングルメント / 量子統計力学 |
研究実績の概要 |
情報スペクトル的方法は,データ圧縮や通信路符号化をはじめとする種々の情報理論的問題について,定常性や無記憶性などの確率論的条件を一切仮定しない一般的な状況で,最も簡明で強力な方法論を提供する.本研究では「プラス型情報スペクトル量」を中心にして,古典系および量子系における情報スペクトル的方法について簡明な議論を提供することを目的とする.平成28年度においては以下の研究を行った. 1.情報スペクトル的方法を用いることで,純粋状態エンタングルメントに関して,任意に与えられた始状態から終状態へ漸近的に変換可能となるための必要十分条件を導いた.これはエンタングルメント蒸留,エンタングルメント希釈に関する理論を極限まで一般化・簡単化する理論であり,始状態から終状態への漸近的変換可能性が,エントロピー・スペクトルレートの大小関係のみで決定されることを示している. 2.情報スペクトル的方法の適用範囲は情報理論にとどまらず,Gibbs状態などの統計力学的な相関を有する物理的状態への解析方法も提供する.近年,量子統計力学によるミクロな議論から熱力学的なマクロな性質を導く研究がさかんに行われている.これまでの研究では定常性や無記憶性を仮定した議論に基づいて研究がなされていた.本研究では,Gibbs状態の集まりからなる系の断熱過程に関して,大偏差原理の仮定のもとで,熱力学第一法則および第二法則と同様な性質が導かれることを示した. 3.情報幾何学は情報処理に関する不変な性質や構造を微分幾何学的に捉える方法であり,情報量の単調性や保存量に関する考察を行う上で,情報スペクトル的方法と密接な関係がある.本研究では,情報幾何において,確率分布全体のなす多様体における部分多様体の平坦性および標準ダイバージェンスの遺伝性が,互いに双対な接続に関する自己平行部分多様体のネスト構造によって特徴付けられることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
情報スペクトル的方法により,純粋状態エンタングルメントの漸近的変換可能性について,極めて一般的で簡明な理論を完成させることが出来た.そこでは研究計画で述べたプラス型情報スペクトル量や情報処理に関する単調性が有効に利用されている.また,物理的状態への適用や情報幾何に関する成果も得られている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通りに研究を進めていくと同時に,情報幾何学的考察に基づいて,プラス型情報スペクトル量の単調性や不変性に関する研究も取り入れていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では文献調査と論文執筆を目的とした計算機を購入する計画であったが,これまでに使用している計算機について,耐用年数を超えて引き続き利用可能であったため,計算機の購入を控えた.また,研究計画では研究補助員を雇用する計画であったが,適切な研究補助員を雇用することが出来なかった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額として繰越をする助成金については,研究補助員を雇用するために使用する計画である.それ以外については当初の計画通り使用する予定であるが,現在利用している計算機に不具合が生じた場合,計算機の購入を行う可能性もある.
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