研究課題/領域番号 |
16K00013
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
山上 智幸 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (80230324)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 巨大ベータ処理 / メモリ領域 / 半線形領域計算量 / パラメタ化 / 有向グラフ経路探索問題 / 論理式充足判定問題 / 線形計画法 / 線形領域仮説 |
研究実績の概要 |
刻一刻と蓄積される膨大なデータを効率良く取り扱う技術の開発が、世界中で行われている。こうした状況を踏まえ、本研究では、入力データ量に対し遥かに少ないメモリ領域で計算処理が可能となる問題群を特定し、それら問題の解法に必要な最小メモリ使用領域を求める。研究計画初年度として有向グラフ経路探索(DSTCON)問題や2乗法標準形(2CNF)論理式充足可能性判定(2SAT)問題などのメモリ領域計算量に関して以下のような基礎的な成果を得た。 計算問題の効率の評価には「計算量」と呼ぶ、アルゴリズムが消費する計算資源の量を一尺度として用いる。この研究では、使用メモリが半線形領域に抑えられる多項式時間アルゴリズムを用いて、特にNLと呼ばれる計算問題の一群を効率良く解くことを目標とする。このために、まず、計算問題の入力要素をパラメタ化する。前述のDSTCON問題ではグラフの頂点数または辺の総数がパラメタとなり、このパラメタを基準にしてメモリ領域量を測定する。 2CNF論理式が充足可能であるか否かを判定するNL問題で、特に各変数がリテラルとして3回まで現れる2SAT3問題を基盤にし、線形領域仮説と呼ぶ新たな作業仮説を提唱した。2SAT3問題を多項式時間と線形領域を消費するアルゴリズムで解くことは可能であるが、メモリ領域量を更に圧縮することは難かしいと考えられてきた。これを基に、線形領域仮説は、パラメタ化した2SAT3問題のメモリ領域計算量が半線形ではない、と主張する。この作業仮説からは、半線形以下のメモリ領域計算では、例えば、パラメタ化したDSTCON問題は解けないことが導かれ、巨大データ処理に対し、極小メモリを有する計算機端末(携帯やタブレットなど)では半線形以上のメモリ領域が必要となることが分かった。 以上述べた成果は現在2つの論文にまとめており、2017年度中に国際会議での発表を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はその第一歩を踏み出したばかりであり最終成果全体を見極めることは難しいが、線形領域仮説の提唱とその妥当性の議論は、ほぼ研究初年度の目標通りに進められた。ただ、妥当性の検証に関しては、その議論が不十分であり、他の分野(例えば、最適化問題など)への有効な応用が不可欠である。このことから、線形領域仮説が多くの研究者に受け入れられるか否かは、今後の研究成果に掛かっていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画実施2年目となる2017年度では、初年度に得られた基盤研究の成果を基に、線形領域仮説の妥当性証明と他分野への応用を中心に研究を進める予定である。 同時に、パラメタ化された有向グラフ経路探索(DSTCON)問題や(2,2)線形計画法(LP2)問題などのNL問題を解く、メモリ使用領域の少ないアルゴリズムの開発も行う。これは、現在知られているアルゴリズムの効率を飛躍的に向上することが目標である。 研究初年度に提案した線形領域仮説の妥当性の検証に関しては、オラクルと呼ばれる外部情報源を用いた思考実験を始めとして、他に知られた問題との相関性を明らかにすることで対処していく。ここで、オラクルによる仮説検証は、計算量理論において広く用いられる手法の一つであり、仮説の妥当性を示すある種の状況証拠とみなすことが出来ると共に、仮説の肯定或いは否定の数学的証明が困難であることを示唆する。また、制限された2階の述語論理式で記述される計算問題はNL問題の重要な一部として考えることができ、線形領域仮説との関連性が高い、と予想される。こうした問題の効率的な解法が一般的に困難であることを示すことで、線形領域仮説の妥当性を検証する。 更に、線形領域仮説の応用として、他分野で良く知られた数学的問題を適切に選び、それらをパラメタ化したうえで、多項式時間解法アルゴリズムのメモリ領域量の上限及び下限を求める。初年度では、DSTCON問題や2SAT問題などの効率を議論したので、2017年度では、近年話題になった直交ベクトル問題などについて、その部分問題の解法アルゴリズムのメモリ効率を求める予定である。 また、線形領域仮説の主張が現実的ではないと言う反駁に対しては、仮説の条件を弱めた線形領域仮説を新たに提案し、その妥当性と線形領域仮説との関連性を明らかにしていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度8月から3月まで、カナダ国トロント大学への長期出張で福井大学を離れていた為、必要機材として申請してあった計算機周辺機器などの購入を見送った。また、研究申請の段階で予定していた国内の研究会及び学会への参加も見送られた。併せて、国際会議への参加も次年度に回すこととなった。こうした理由で、今年度の予算執行が、当初の予定と少し異なった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究初年度で見送った消耗品類を2017年度中に購入する予定である。また、研究成果を広く国内外の研究者に公表するために、複数の国際会議での発表並びに国内外の学会・研究会での発表を予定している。研究初年度の予算は次年度の予算と合算して、予算執行を行う。
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