研究課題/領域番号 |
16K00014
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
尾張 正樹 静岡大学, 情報学部, 准教授 (80723444)
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研究分担者 |
林 正人 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (40342836)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子ネットワーク符号 / 量子暗号 / 量子ネットワーク / エンタングルメント / 量子情報 / ネットワーク符号 |
研究実績の概要 |
本研究の目的な量子ネットワーク上で長距離の秘密鍵配送を実現するために必要な理論を作り上げることである。この目的のために、我々は量子ネットワークの中間ノードで状態を符号化する技術である量子ネットワーク符号に着目をした。従来の量子ネットワーク符号の研究は、スループットを増加させることにのみ目的を絞っており、安全性への寄与に関する研究がなされていなかった。一方で、従来の古典ネットワークの研究においては、ネットワーク符号は安全性の向上にも寄与することが知られている。そのため、量子ネットワーク符号も量子通信の安全性に寄与することが期待される。 昨年は、最も簡単な量子バタフライネットワークにおける安全な量子ネットワーク符号を開発したが、今年度は、この結果を一般的なグラフに拡張をすることを目指した。前年度のバタフライネットワークにおける解析で、対応する古典ネットワークにおいて符号が安全であったとしても、その量子ネットワークへの拡張は必ずしも安全にはならないことを見出していた。この点に注意をしながら一般の量子ネットワーク符号に関する安全性の解析を行うことで、量子ネットワーク符号の安全性を担保するためには、対応する古典ネットワーク符号が安全するのみでは不十分であり、さらに対応する古典ネットワークが盗聴者の攻撃に対して頑強である必要があるということを証明した。さらに、盗聴者の攻撃に対して安全かつ頑強な任意の古典ネットワーク符号をもとにして、盗聴されても秘匿性の保たれる量子ネットワーク符号を作成する方法を与えた。この一般的な手法を用いることで、任意の1量子通信路が盗聴されても安全な非自明なn人の送信者がそんざいする量子ネットワーク符号や、任意の2つの量子通信路が盗聴されても安全な量子ネットワーク符号を構築した。また、安全な量子ネットワーク符号と量子秘密分散との関係性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、ネットワーク上で量子状態の送受信を行うことで安全な通信を行うことを研究の目的としている。従来研究により一対一通信の量子鍵配送に関する理解は相当に深まっているが、一方、ネットワーク上の通信においては、ネットワークのトポロジーが一対一通信では存在しなかった安全性への根拠を与える可能性が高い。実際、古典ネットワークにおける安全なネットワーク符号プロトコルは、まさしくそのような例となっている。本年度は、安全な古典ネットワーク符号をもとにして安全な量子ネットワーク符号を構築するための一般的な手法を与えた。すなわち、量子ネットワーク上においてもネットワークのトポロジーを、量子通信の安全性に役立てるための一般的な手法を構築することができた。このことにより、量子鍵配送のような一対一の暗号プロトコルの場合には存在しなかった、ネットワークのトポロジーに由来する安全性が量子ネットワーク符号により与えることができることが一般的に示された一方で、今回、提案した量子ネットワーク符号プロトコルを実装するためには、各ノードはかなりの規模の量子演算を行う必要がある。そのため、本年度のプロトコルは、ノードにおいて自由な量子演算を許した場合にのみ実行可能であるということができると思われる。よって、本年度の研究により、ノードにおいて自由な量子演算を許した場合に量子ネットワークの安全性がどのように向上するのかが明確に示されたという意味において、本研究課題は順調に遂行されていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題の推進方策であるが、まずは、一般の量子ネットワークに関する結果については、現在論文を執筆中であり、今年度前半に投稿する予定である。 今年度の結果は、一般の量子ネットワークに関する結果であるが、その通信方式がn人の送信者がn人の受信者に独立に情報を送信するmultiple-unicastに限定して解析を行った。一方で、ネットワーク上の通信方式としてはmultiple-unicast以外にも、1人の送信者がn人の受信者に同一の情報を通信するmulticast通信や、multiple-unicastとmulticastの双方を含んだ一般化である、multi-source multicast通信が考えられる。最終年度の目標の一つは2年度目で得られたmultiple-unicast通信に関する理論を、これらその他の通信方式の場合に拡張することとする。そのためには、multicast通信から手を付ける必要があるが、量子ネットワーク上のmulticast通信に関しては、量子力学のクローン禁止定理のために、古典ネットワーク上の通信との対応が自明ではない。まずは、この問題を解決してmulticast 量子ネットワーク符号化の一般論を構築する必要がある。その後、multicast 量子ネットワーク符号化の安全性を解析するという順で研究を進めていく予定である。 今年度の結果には、さらにもう一つの不完全な点がある。それは、今年度得られたプロトコルでは盗聴者による攻撃から、送信状態が秘匿されることは保証はされても、攻撃を受けた場合には必ずしも受信者に送信状態が届く保証はされていない点である。もちろん、盗聴者が攻撃をしても、受信者に送信状態が届く方が都合が良いので、それを満たす量子ネットワーク符号を構築することを最終年度のもう一つの課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在執筆中の論文の英文添削を計上予定であったが、今年度中に論文の執筆が終了しなかったために、英文添削を使用する状況にならなかった。当該論文は、今年度前半には執筆が終了する予定であり、今年度に英文添削を行い、次年度使用額を使用する予定である。
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