研究実績の概要 |
本研究の目的である, サーバ, PC, スマートフォン,無線センサネットワーク, IoT など, 様々な要素で構成される膨大な規模の分散システム(コンピュータネットワーク)を対象として,プロセス(ノード)間の相互作用のパターンを構成する分散アルゴリズム構造の研究を進めてきた. 特に, 各プロセスが得られる情報が局所的に限定されている場合や,相互作用が局所的に限定される元で大局的な性質を保証する手法などの研究を進めてきた. 各プロセスが得られる情報が局所的なものに限定されている問題設定として, 全体ネットワークの部分構造を求めるアルゴリズムを考案した. 具体的には, 全域連結部分グラフを求める局所分散アルゴリズムを提案した. また, その問題が有する複雑度, すなわち得られる部分構造のサイズの下界を示した. これにより, 平成28年度に予定していた結果を得ることが出来た. つづいて, 予定を早めて平成29年度に予定していた分散プロセス同期機構のアルゴリズムの開発に着手した. 分散相互包含排除の局所的な一般化問題を提案し,そのアルゴリズムを提案した. 提案手法では, 分散相互排除アルゴリズムと分散相互包含アルゴリズムを相補的に組み合わせて動作させるが, 完全にクリーンな合成とは言えず, 若干複雑な制御が必要となった. この理由については何がしかの興味深い性質が隠れている可能性があり, 今後の発展研究の課題としたい. 以上の成果は, 学術論文誌, 国際会議, 研究会, ワークショップにて発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局所分散アルゴリズムの研究においては, 辺数の少ない全域部分グラフを求める問題を設定して研究を進めた. 巨大なネットワークでは多くの辺(通信リンク)が存在し, 通信のための経路表の維持には多くのコストがかかる. そこで, 対象とする辺の数を削減することでそのコストの低減が行える. 従来の研究では生成木(spanning tree)がその目的に合致する 部分グラフ構造として研究がされてきた. しかし, 局所情報に限定されたネットワーク環境では, 生成木の計算は出来ない. そこで, 本研究では, ネットワークの連結性を保ち, かつ, 辺数を可能な限り削減する局所分散アルゴリズムを提案した.
分散プロセス同期機構の研究では, 相互包含排除問題の研究を行った. 特に, 臨界領域にあるプロセスとその隣接プロセスの数が, プロセスごと(局所的)に異なる制約を満たす問題である局所相互包含排除という問題設定を行った. 具体的には, 局所相互包含排除問題を解く分散アルゴリズムを提案した. しかし完全に任意の制約に対して動作するアルゴリズムとはならず, 制限付きの場合でしかアルゴリズムは構成できなかった.
以上の成果は, 学術論文誌, 国際会議, 研究会, ワークショップにて発表した.
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度, 30年度には, ひきつづき分散プロセス同期機構のアルゴリズムの研究の継続を行う. 特に, 高度な故障耐性を有する自己安定性を実現したアルゴリズムの提案, 各プロセスの状態数の削減がどこまで可能であるかといった問題が持つ状態複雑度の解明, ならびに, コンピュータシミュレーションによる提案アルゴリズムの実験的な評価を進めて行く. 現在の提案手法では, 分散相互排除アルゴリズムと分散相互包含アルゴリズムを相補的に組み合わせて動作させるが, クリーンな合成とはならず, 若干複雑な制御を必要とする構造であった. クリーンな合成によるアルゴリズム構築手法については, 今後の課題とする. また, 局所的な相互排除包含のパターンには, 実現が非常に困難なものが見つかっており, もしかしたら実現が不可能なパターンが存在する可能性が考えられている. 実現の困難性に関しては理論的な観点からも非常に興味深いものであり, 発展的な研究課題として進めて行きたい.
|