研究実績の概要 |
n変数の関数f(x1,x2,...,xn)に対して,素子数nの3乗の回路を設計したとする.はたして,良い回路が設計できたかどうかは,どのように評価すれば良いだろうか.たとえば,任意の微小な定数ε>0に対して,素子数nの(3-ε)乗の如何なる回路でも関数fは計算できないといった最適性が,理論的に証明できればいいのだが,その証明は非常に難しいことが知られている.さらに言えば,任意の有理数r>1に対して,素子数nのr乗の回路で計算できるが,素子数nの(rーε)乗の回路では計算できないという具体的な関数fが実際に存在するか否かさえも分かっていないのである.本研究の第一の目的は,問題を解くのに必要となる計算時間や記憶領域量などの計算資源量に基づく計算複雑性クラスの間の包含関係や,クラス間の階層性を明らかにすることである.そして,クラス間に存在する真に難しい関数を人工的に作成し,システム評価に役立てる. 2016年度は,多項式時間で計算できる問題のクラスであるPと,それを包含している非決定性クラスNPについて,クラス間の関係を調べた.その結果,直交多角形内の最少警備員配置と呼ばれる組合せ問題がNP困難であることを,3-occurrence-3-SAT問題からの多項式時間還元により証明した.この結果は,クラスPとクラスNPの間の真の包含関係を示唆する一つの証拠を与えている.本結果は,IEICE Transactions on Information and Systemsに2017年7月に掲載されることが決定している.
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