研究課題/領域番号 |
16K00021
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
藤原 暁宏 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (10295008)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルゴリズム / ナチュラルコンピューティング |
研究実績の概要 |
ナチュラルコンピューティングの一つとして,生態系を並列分散処理システムのハードウェアとみなし,このシステムを統合的に制御して問題の解を求める計算モデルとしての研究が注目を集めている.本研究では,従来の研究では考慮されることの少なかったナチュラルコンピューティングの実現可能性に焦点を当て,不確実性を考慮した計算モデルの計算能力の検証や,ロバストな計算手法の提案を行う.また,提案計算モデルのシミューレータの開発を行い,提案アルゴリズムの正当性,及び,実効性の検証を行う. 平成29年度は,以下のような内容を中心に研究を行なった. 1.提案アルゴリズムの改良,および,計算困難問題に対するアルゴリズムの提案;平成28年度に提案したアルゴリズムに対して,実際の細胞の制約条件の一つである膜数に焦点をあてた改良を行なった.また改良アルゴリズムをシミュレーション環境にて評価を行い,アルゴリズムの有効性を示した. 2.実現可能性を考慮した膜計算モデルにおける実用的なアルゴリズムの提案:平成28年度に引き続き,現実的な膜数の制限を考慮した実現可能なアルゴリズムの提案を行なった.対象とした問題は,充足可能性問題,および,MAX-SATと呼ばれる有名な計算困難問題であり,充足可能性問題については,提案アルゴリズムのシミュレーション評価も行うことにより,アルゴリズムの有効性を示した. 3.膜計算シミュレータの改良: 平成28年度に構築した実現可能性を考慮したプロトタイプシミュレータに対して,改良を行い,膜計算の正確な評価が可能なシミュレータの開発を行なった.また,上記1,2にて提案したアルゴリズムを本シミュレータ上にて動作させることにより,提案アルゴリズムの正当性と有効性の検証を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実現可能性を考慮した計算モデル,及び,その計算モデルに対するアルゴリズムの提案に関しては,1件の国際会議発表と1件の国内発表として研究内容の公表を行うとともに,1本の論文が学術雑誌にて印刷中である.また,本研究の内容について,台湾大学での先端的な取り組みに関するワークショップにおいて発表を行った.加えて,実現可能性を考慮したシミュレータの開発については,膜計算の正確な評価が可能となる改良を加えており,提案アルゴリズムの正当性や有効性の検証に用いられている.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降については,以下のような研究に取り組んでいきたいと考えている. 1. 提案アルゴリズムの改良,及び,計算困難問題に対するアルゴリズムの提案:平成29年度において得られたアルゴリズムについては膜数の減少を実現することができたが,実際の生化学オブジェクトの制約条件や使用する生化学反応物の個数等については,改良の余地が残されている.そこで,これらの指標についてアルゴリズムの更なる改良を目指す.また,平成29年度で取り組んだ問題以外にも重要な問題は数多く存在するが,実現可能性を考慮した計算モデルを用いて提案されているアルゴリズムはほぼ存在しない.本研究では,部分和問題やナップサック問題などの数値を扱う計算困難問題や,最大独立点集合問題や最小頂点被覆問題などのグラフ関連の問題に対しても実現性を考慮したアルゴリズムの提案を行う予定である. 2.ナチュラルコンピューティングにおけるその他の計算モデルにおける実現可能性の考察:ナチュラルコンピューティングにおいて膜計算以外に注目を集めている計算モデルとして,酵素を用いて実行を制御する計算モデル(EN P システム)や,神経細胞の活動をモデル化した計算モデル(SN Pシステム)が存在する.本研究では,これらの計算モデルに対して,実際の生態系のシステムの制約条件を考慮した実現可能性の高い計算モデルの提案を行うとともに,計算困難な問題や基本的な演算についてアルゴリズムの提案を行うことを目指している. 3.並列膜計算シミュレータの開発:平成29年度に構築したシミュレータを元に, 並列処理環境において,大きな入力に対しても対応可能な並列膜計算シミュレータの実装を行なう.並列膜計算シミュレータの機能として,従来のシミュレータの機能に加えて,並列化による処理の効率化の度合いや実行時間の変化等を検証可能とする予定である.
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