研究課題
ナチュラルコンピューティングの一つとして,生態系を並列分散処理システムのハードウェアとみなし,このシステムを統合的に制御して問題の解を求める計算モデルとしての研究が注目を集めている.本研究では,従来の研究では考慮されることの少なかったナチュラルコンピューティングの実現可能性に焦点を当て,不確実性を考慮した計算モデルの計算能力の検証や,ロバストな計算手法の提案を行う.また,提案計算モデルのシミューレータの開発を行い,提案アルゴリズムの正当性,及び,実効性の検証を行う.平成30年度は,以下のような内容を中心に研究を行なった.1.提案アルゴリズムの改善,および,取りまとめ:今までに提案したアルゴリズムに対して,いくつかの更なる改善を行い,研究成果の取りまとめを行なった.この改善アルゴリズムについては,国際的な論文誌への掲載が行われた.2.実現可能性を考慮した膜計算モデルにおける実用的なアルゴリズムの提案:平成29年度に引き続き,現実的な膜数の制限を考慮した実現可能なアルゴリズムの提案を行なった.対象とした問題は,ハミルトン閉路問題,および,グラフ彩色問題と呼ばれる有名な計算困難問題であり,両者について提案アルゴリズムのシミュレーション評価も行うことにより,アルゴリズムの有効性を示した.これらの研究成果については,平成31年度において,国際会議等で発表予定である.3.膜計算シミュレータの改良:平成29年度に構築したプロトタイプシミュレータを,近年注目を集めているプログラミング言語であるpythonも用いることにより,シミュレーション精度の向上と,実行速度の改善を目指してシミュレータの開発を行なった.また,上記1,2にて提案したアルゴリズムを本シミュレータ上にて動作させることにより,提案アルゴリズムの正当性と有効性の検証を行った.
2: おおむね順調に進展している
実現可能性を考慮した計算モデル,及び,その計算モデルに対するアルゴリズムの提案に関しては,国際的学術雑誌における1本の論文として取りまとめることができた.また,本研究の内容について,台湾や韓国の研究者との先端的な取り組みに関するワークショップにおいて発表を行った.加えて,実現可能性を考慮したシミュレータの開発については,pythonを用いて新たに再構築を行なっており,提案アルゴリズムの正当性や有効性の検証を更に効率的に行うことができるようになった.
平成31年度については,以下のような研究に取り組んでいきたいと考えている.1. 提案アルゴリズムの改良,及び,計算困難問題に対するアルゴリズムの提案:平成30年度において計画していた実際の生化学オブジェクトの制約条件や使用する生化学反応物の個数等については,改良を行うことができなかった.これらの指標については,新たな方向性からアルゴリズムの改良を計画している.また,平成30年度までで取り組んだ問題以外にも数多く存在する計算困難問題に対して,実現可能性を考慮した計算モデルを用いてアルゴリズムの提案を行う予定である.2.ナチュラルコンピューティングにおけるその他の計算モデルにおける実現可能性の考察:ナチュラルコンピューティングにおいて膜計算以外に注目を集めている計算モデルとして,酵素を用いて実行を制御する計算モデル(EN P システム)や,神経細胞の活動をモデル化した計算モデル(SN Pシステム)が存在する.平成30年度ではこれらのモデルに対するアルゴリズムの提案を計画していたが,現段階ではまだ未着手である.平成31年度では,これらの計算モデルに対して,実際の生態系のシステムの制約条件を考慮した実現可能性の高い計算モデルの提案を行うとともに,計算困難問題や基本的な演算についてアルゴリズムの提案を行うことを目指している.3.並列膜計算シミュレータの開発:平成30年度にpythonを用いて構築したシミュレータを元に, 並列処理環境において大きな入力に対しても対応可能な並列膜計算シミュレータの実装を行ない,さらなる実行時間の高速化を目指す予定である.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
International Journal of Networking and Computing
巻: Vol. 8, No. 2 ページ: 141-152
10.15803/ijnc.8.2_141