ナチュラルコンピューティングの一つとして,生態系を並列分散処理システムのハードウェアとみなし,このシステムを統合的に制御して問題の解を求める計算モデルとしての研究が注目を集めている.本研究では,従来の研究では考慮されることの少なかったナチュラルコンピューティングの実現可能性に焦点を当て,不確実性を考慮した計算モデルの計算能力の検証や,ロバストな計算手法の提案を行った.また,提案計算モデルのシミュレータの開発を行い,提案アルゴリズムの正当性,及び,実効性の検証を行なった. 最終年度である令和元年度については,以下のような研究に取り組んだ. 1. 提案アルゴリズムの改良,及び,計算困難問題に対するアルゴリズムの提案:今までに提案したアルゴリズムに対して,新たな手法を提案し,計算量の改善を行なった.また,グラフの計算困難問題であるハミルトン閉路問題や最小彩色問題に対して,実際の生化学オブジェクトの制約条件や使用する生化学反応物の個数等を考慮した効率のよいアルゴリズムの提案を行なった. 2.ナチュラルコンピューティングにおけるその他の計算モデルにおける実現可能性の考察:ナチュラルコンピューティングにおいて膜計算以外に注目を集めている計算モデルにおいて,実際の生態系のシステムの制約条件を考慮した実現可能性の高い計算モデルの検討を行なった.また,この計算モデルの上で,計算困難問題や基本的な演算についてアルゴリズムの提案を行うことを検討した. 3.並列膜計算シミュレータの開発:平成30年度にpythonを用いて構築したシミュレータに対して様々な改善を実施し,並列処理環境において大きな入力に対しても対応可能な並列膜計算シミュレータの実装を行なった.また,このシミュレータ上で提案アルゴリズムの検証を行い,提案アルゴリズムの有効性を示した.
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