研究課題/領域番号 |
16K00030
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
三好 直人 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20263121)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 確率モデル / 無線通信ネットワーク / 空間点過程 / 信号対干渉比 / 確率分布の裾 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,無線通信ネットワークにおける無線基地局の不規則な配置を空間点過程と呼ばれる確率過程を用いてモデル化し,そのモデル (空間確率モデル) を解析することによって無線ノードの不規則な配置がネットワークの性能に及ぼす影響を調べています. 平成29年度は主に,(前年度に引き続き) セルラネットワークの空間確率モデルにおいて,信号対干渉比と呼ばれる性能指標の確率分布の裾の漸近解析を行いました.前年度のモデルでは,距離に応じた信号の減衰を表す関数 (経路損失関数) として,べき乗関数を仮定していました.しかし,べき乗関数の場合,確かに無線信号が距離に応じてべき乗で減衰することを表せているのですが,距離が0に近づくとともに信号が無限大に発散することを仮定してしまっています.そこで平成29年度は,有界な正則変動関数を経路損失関数として採用しました.正則変動関数はべき乗関数を一般化したものです. 経路損失関数がべき乗関数のときは信号対干渉比の確率分布の裾の直接的な漸近解析が可能だったのですが,有界な正則変動関数を用いることによって直接的な漸近解析が困難になってしまいました.そこで信号対干渉比の分布の裾の対数をとり,それに対して漸近的な性質を調べました.基地局の配置を表す点過程としてポアソン点過程を仮定したときに信号対干渉比分布の裾の対数漸近上界および対数漸近下界を求め,さらに基地局の配置を表す点過程として行列式点過程を仮定したときに同様の対数漸近上界を求めました.これにより信号対干渉比分布の裾が指数的に減衰することを示すことができました.この研究成果は学術論文誌に発表しています.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内の別用務との関係で,当初予定していた国際会議に参加できず,そのため研究成果の発表が少し遅れているように見えますが,成果自体は着実に生まれています.公表に至るまでには若干時間がかかるかもしれませんが特に大きな問題はないと考えています.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は主に次の3つを考えています. 1. 平成29年度に引き続き,信号対干渉比分布の裾の対数漸近特性を調べます.平成29年度の結果では,基地局の配置を表す点過程にポアソン点過程を仮定したときと行列式点過程を仮定したときで同じ対数漸近上界が導かれました.しかし,数値実験をしてみると,行列式点過程の場合はポアソン点過程の場合よりも早く信号対干渉比分布の裾が減衰しているようです.そこで,行列式点過程の場合にタイトな対数漸近上界が得られないか検討します. 2. クラスタ型点過程を用いたセルラネットワークのモデル化と解析を行います.実際のセルラネットワークでは,大きな送信出力で広い範囲をカバーするマクロ基地局と小さな送信出力で狭い範囲をカバーするスモール基地局が混在します.また,スモール基地局はユーザが密集した地域に集中して設置される傾向があります.これをモデル化するためにクラスタ型点過程を用いて解析します.これは,H. S. Dhillon 氏 (Virginia Tech, USA) との共同研究です. 3. 基地局が高密度で設置されたネットワークを考えるため,空間確率モデルにおいて基地局の設置密度を無限大にスケーリングしたときのある種の極限定理を導きます.
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次年度使用額が生じた理由 |
国内の別用務との関係で当初予定していた国際会議に参加できなかったことが1つの大きな原因です.国際会議での研究成果発表ができなかった分は学術雑誌での発表に代え,論文掲載料として使用する予定です.
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