本研究課題では,無線通信ネットワークにおける無線基地局の不規則な配置を空間点過程と呼ばれる確率過程を用いてモデル化し,そのモデル (空間確率モデル) を解析することによって無線ノードの不規則な配置がネットワークの性能に及ぼす影響を調べています.2019年度の研究実績は以下の通りです. まず1つ目として,送信出力が大きく広い範囲をカバーできるマクロ基地局と送信出力が小さく狭い範囲しかカバーできないスモール基地局が混在するセルラネットワークをモデル化・解析することによって,ネットワークの性能評価を行いました.ここでは,マクロ基地局の配置を均質なポアソン点過程によって表現する一方で,スモール基地局の配置は正の相関のある点配置を表現できるポアソン・クラスタ点過程によって表しました.これは現実のセルラネットワークにおいて,スモール基地局が需要の大きいところに集中して配置されることを表現するものです.また,ユーザ端末の配置も基地局の配置と独立な場合,そしてスモール基地局の配置と正の相関がある場合の2通りを解析しました.この研究成果は IEEE Transactions on Wireless Communications という学術論文誌に発表しています. 2つ目は次の研究課題への橋渡しとなるもので,基地局が高密度に配置されるセルラネットワークを想定しています.ここでは,基地局の配置をモデル化する点過程の強度 (点の密度) が限りなく大きくなったときに電波干渉を表す確率場に対してある種の中心極限定理が成りたつことを示しています.この研究成果はランダム行列や確率幾何に関する国際ワークショップに招待していただいた機会に発表しました.
|