研究課題/領域番号 |
16K00033
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
藤原 洋志 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (80434893)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オンライン最適化 / アルゴリズム / 数理工学 / 情報基礎 / 応用数学 |
研究実績の概要 |
(1) スキーレンタル問題は、オンライン最適化問題のトイプロブレムである。将来の使用期間が不明な耐久財を求める際に、賃貸が得か、あるいはどのタイミングでの購入が得か、という選択を定式化した問題である。多状態スキーレンタル問題はこれを次のように拡張した問題である。可能な選択肢が賃貸か購入かのみでなく、加えて、耐久財の一部を購入し残りは賃貸する選択肢が複数用意される。多状態スキーレンタル問題を別の角度から解釈すると、モバイル機器の多段階低電力モード推移戦略(例えば、30 分操作がなければ自動的にスリープ、さらに 60 分たてばシャットダウン)の最適化(つまり、省電力化)を表現している。我々は、耐久財をまとめて購入する際の割引率に着目し、多状態スキーレンタル問題に対する最適戦略、およびその競合比の解析を行った。
(2) ビンパッキング問題は、順次到着するアイテムを、そのつどビンに詰めていき、なるべく少ない数のビンに収めることを目的とするオンライン最適化問題である。計算機アーキテクチャからロジスティックスに至るまで幅広い応用があり、40年来計算機科学者の好奇心を刺激し続けてきた有名な問題である。我々は、アイテムサイズを2種類に限定した問題に取り組む。2種類のみというとごく簡単な問題と思われるかもしれないが、アイテムが逐一到着するモデルにおいては、理想的なパッキングを必ずしも得られないことが分かっている。では、理想的なパッキングにどれだけ近づけるか(競合比下界という)、が研究者の注目の的となっている。我々は、これまで分かっていなかったいくつかのケースについて競合比下界を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 多状態スキーレンタル問題について、我々は割引率に着目した解析を行った。割引率とは、耐久財を一括購入する価格と、部分ごとに購入する場合の価格の総和との比である。モバイル機器の省電力化の文脈でいえば、機器を構成する複数のデバイスを同時に起動する場合と、順次起動する場合との消費電力量の比である。我々の具体的な取り組みは、この割引率をパラメータとした最適戦略の競合比の取りうる範囲を解析である。特に、状態数が 3 の場合についての完全な解析を与えた。割引の度合いが大きい場合に、たとえ最適戦略をとったとしても、その性能が悪くなるような設定が存在することが明らかになった。結果をまとめ、学術論文誌にて発表した。
(2) ビンパッキング問題に関するEpsteinとLevinの2008年の論文では、1つのビンに、大きい方のアイテムが2個以上入る場合について、競合比下界を明らかにしている。ただしこの結果は、小さい方のアイテムサイズが任意であることを前提としており、小さい方のアイテムサイズを指定した場合には未解決であった。我々は、この未解決の場合の競合比下界を以下の2通りの方法で得た。まずは、EpsteinとLevinの線形計画問題を拡張し、その解から導出するものである。しかしこれは、アイテムサイズを用いて陽に表すことができない。そこで我々は双対問題を定式化し、その実行可能解を具体的に構築することにより、精度では劣るものの、陽に表すことのできる競合比下界を得た。この成果に関し、国際会議AAAC2017で発表することが決定している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 割引率をパラメータとした多状態スキーレンタル問題を解く主双対アルゴリズム設計に取り組む。Buchbinder らの主双対オンラインアルゴリズム設計手法は、スキーレンタル問題を定式化可能であり、ただちに最適オンラインアルゴリズムを得ることができる。我々のねらいはこの手法を多状態スキーレンタル問題に拡張することである。しかしながらこれを安直に当てはめることはできない。それは、戦略を表現する主問題の変数が多値でなければならないからである。最近、国際会議SODA2017において、双対理論を応用し競合比下界を統一的に導出する提案が報告された。我々はこの取り組みが多状態スキーレンタル問題に対する主双対アルゴリズム設計の重要なカギになると考えている。
(2) アイテムサイズを2種類としたビンパッキング問題について、まずはより良い競合比下界を求めることが目標である。【現在までの進捗状況】の(2)で述べた、2番目の取り組みは双対理論によるものである。具体的には、双対問題を定式化し、実行可能解を構築することで競合比下界を得ている。その実行可能解の構築は、双対問題のいくつかの制約条件と比べ、それより強い単一の条件を考えることによって行った。結果的に、主問題から得られる競合比下界とのギャップが生じている。我々は改善の余地が非常に大きいと考えており、ここからより良い競合比下界を導出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、平成28年度に海外出張を実施予定であったが、アイテムサイズを2種類としたビンパッキング問題についての研究の進捗状況により、平成29年度に実施することとしたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、平成29年度請求額と合わせて外国旅費として使用する。
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