研究課題/領域番号 |
16K00033
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
藤原 洋志 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (80434893)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オンライン最適化 / アルゴリズム / 数理工学 / 情報基礎 / 応用数学 |
研究実績の概要 |
(1) 多状態スキーレンタル問題は、将来の使用期間が不明な耐久財を入手する際、賃貸、耐久財の一部分の購入、あるいは耐久財の全体の購入といった選択肢、およびそれらの行使タイミングを最適化する問題である。直接的な応用例として、モバイル機器などの多段階低電力モード推移の最適化を表現している。この問題に対するアルゴリズムは、耐久財を使用していく中で、どのタイミングでどの選択肢に移行するかを記述したものである。アルゴリズムの評価には、競合比と呼ばれる評価尺度が用いられる。多状態スキーレンタル問題に対しては、いまだに最適アルゴリズム(つまり競合比が最小となるアルゴリズム)が知られていない。本研究では、選択肢の数をパラメータとした部分問題を考察した。結果として、最適アルゴリズムの競合比上界の改良に成功し、加えて、競合比下界を根に持つと予想される漸化式の簡略化を行った。これらの成果をまとめて電子情報通信学会英文論文誌Dに投稿し、採録された。
(2) 木は基本的な離散構造であり、目的に応じた木の生成は実用面においても重要性が増している。とりわけハフマン木問題は、最小平均符号長をもつハフマン符号を与える古典的な問題である。これを一般化した、「葉の深さの関数」の総和を目的関数とする一般化ハフマン木問題が注目を集めている。本研究では、「葉の深さの関数」がすべて、ある制約を満たす非減少関数である場合に、一般化ハフマン木問題が多項式時間で解けることを証明した。これらの成果をまとめて国際会議JCDCGGGにて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 多状態スキーレンタル問題は、最適アルゴリズム(つまり競合比が最小となるアルゴリズム)が知られておらず、現在までに分かっているのは、最適アルゴリズムの競合比が 4 以下であることと、および、3.62 以上であることのみであった。本研究では、選択肢の数をパラメータとした部分問題を考察した。そして、競合比上界の解析の精緻化を行った。その結果、例えば、選択肢の数が 5 の場合には、最適アルゴリズムの競合比が 3.83 以下、選択肢の数が 6 の場合には、最適アルゴリズムの競合比が 3.93 以下であることが分かった。これらはいずれも 4 を真に下回る、はじめての結果である。他方、競合比下界に関しては、競合比下界を根に持つと予想される漸化式に着目した。この漸化式は、項が進むにつれ分母の項が増えるものだった。本研究で検討を行った結果、各項が分母のない多項式で表される、等価な漸化式を得た。
(2) 一般化ハフマン木問題の問題例は、全2分木の「葉の深さの関数」の列である。一般の関数列に対しては、一般化ハフマン木問題がNP困難であることがすでに知られている。他方、関数列が線形関数のみからなるケースは、有名なハフマンのアルゴリズムによって、多項式時間で解ける。それでは、関数列のクラスをどこまで絞れば、多項式時間で解けるのであろうか。本研究では、上界付き線形関数に着目する。研究成果として、傾きと上界値に関する2つの条件のうち、少なくともどちらかを満たす場合に対する多項式時間アルゴリズムを設計した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 本研究で得た競合比上界は、明らかに改良の余地がある。それは、不等式から得られる競合比上界と、実際に構成したアルゴリズムの競合比との間に大きなギャップがあるからである。解析手法をより精緻化することにより、より小さな上界を与えることをねらう。他方、競合比下界の方は、下界値そのものの改良は、もはや不可能であると予想している。そのため、下界値そのものの背後にある性質を解明していくことが重要である。
(2) これまで本研究で取り上げた上界付き線形関数は、非減少関数の特別な場合である。「葉の深さの関数」がすべて非減少関数である場合に、一般化ハフマン木問題が多項式時間で解けるかどうかは、自然な疑問であるが、未解決である。本研究では今後、これが多項式時間で解けるという予想のもと、アルゴリズム設計を試みる。方策として有力なのは、多面体アプローチである。多面体アプローチの有効性は、サイズの種類の数が有限のビンパッキング問題が多項式時間で解けることを示せるなど、実証済みである。一般の非減少関数を扱うのが難しい場合は、何らのクラスを設定して、その中でのアルゴリズム設計を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、一般化ハフマン木問題に関する研究発表のための出張および学術論文の投稿を令和元年度に実施予定であったが、研究の進捗状況により令和2年度に実施することとしたため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) ・次年度使用額は、旅費および論文掲載料として使用する。
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