研究課題/領域番号 |
16K00034
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
滝根 哲哉 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00216821)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | M/G/1型マルコフ連鎖 / レベル依存 / 数値計算法 / 再呼のある待ち行列 / 途中退去のある待ち行列 |
研究実績の概要 |
レベル依存するM/G/1型マルコフ連鎖とは、非負整数値を取るレベル変数と、レベル変数が取る値が与えられたとき、その値に依存する有限集合から値を取る相変数の組を状態とする2変数マルコフ連鎖において、1回の遷移でレベル変数が高々一つしか減少しないという性質を持つものの総称である。情報通信システムの性能評価で用いられる大多数の待ち行列モデルにおける系内客数過程はレベル依存するM/G/1型マルコフ連鎖を用いて表現されるため、構造化されたマルコフ連鎖の中でも、特に重要なクラスと考えられている。平成28年度には,既約で正再帰的なレベル依存するM/G/1型連続時間マルコフ連鎖において,レベルが一つ下がる遷移を表現するブロック行列があるレベル以上では全てM次元行列であり、かつ、正則であるという仮定の下で、レベルがN以下であるという条件付き定常状態確率の数値計算アルゴリズムの開発を行い、海外学術雑誌に研究成果を発表した。平成29年度は、上記の仮定を外し、一般の既約で正再帰的なレベル依存するM/G/1型連続時間マルコフ連鎖を対象に、前年度と同様の数値計算アルゴリズムが、アルゴルズムの実行過程で計算される各量がもつ確率的意味を考察することで、適用できることを示した。さらに、数値計算アルゴリズムの停止条件を改良した。レベル依存しないものも含め、構造化されたマルコフ連鎖に対する従来の数値計算アルゴリズムにおいて、数値計算結果の誤差評価が可能なものは存在しない。その意味で、本研究の成果は画期的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに研究は進んでいる。研究実績の概要に示したとおり、平成29年度は、一般のレベル依存するM/G/1型マルコフ連鎖を対象に研究を進めた。まずはじめに、平成28年度の研究において仮定した、レベルが一つ下がる遷移を表現するブロック行列があるレベル以上では全てM次元行列であり、かつ、正則であるという条件の下で成立することが示された、数値計算アルゴリズムの基礎をなす理論的結果が、特別な構造を持たない G/G/1型マルコフ連鎖においても成立することを示した。ただし、この理論的結果に基づいた数値計算アルゴリズムを考える際、鍵となる量が一般のG/G/1型では計算することができない。一方、対象を一般のレベル依存するM/G/1型マルコフ連鎖に絞れば、平成28年度の研究成果をそのまま利用して、この鍵となる量を効率的に計算可能である。すなわち、平成28年度に開発した数値計算アルゴリズムは、そのまま、一般のレベル依存するM/G/1型マルコフ連鎖に適用可能である。さらに、停止条件に工夫を加え、数値計算アルゴリズムの最終的な出力である、レベルがN以下であるという条件付き定常状態確率の誤差を直接、評価する手順の開発を行った。これらの研究成果はすでに論文としてまとめ、海外学術雑誌に投稿済みである。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、再呼のある待ち行列モデルならびに途中退去のある待ち行列モデルに対して、各モデルがもつ固有の性質を利用することで、前年度までに開発した数値計算アルゴリズムを特化させ、より効率的なアルゴリズムの開発を探求する。また、これらの数値計算アルゴリズムで直接、計算可能な系内客数分布のみならず、待ち時間分布など、他の性能評価指標の計算手法に関しても、系内客数分布を元にした数値計算手法の開発を進める。 さらに、これらとは並行して、一般のG/G/1型マルコフ連鎖に対する数値計算アルゴリズムに関する検討を開始する。上で述べたように、本研究で開発している数値計算アルゴリズムの基礎をなす理論的結果は、マルコフ連鎖の構造には依存せず、一般のG/G/1型マルコフ連鎖において成立する。この事実は、可算無限個の状態をもつ任意のマルコフ連鎖の条件付き定常分布を計算することが可能であることを示唆している。従来、構造を持たないマルコフ連鎖の数値計算法は切断技法(状態空間を切断し、有限状態マルコフ連鎖で近似)しか知られておらず、この手法を用いた場合、出力である定常分布の誤差評価を行うためには、定常分布の裾の評価が不可欠であった。一方、本研究の成果を発展させれば、構造を持たない任意のマルコフ連鎖における条件付き定常分布に関して、誤差評価付きの数値計算アルゴリズムが開発できる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張を取りやめたため差額が生じた。繰越額は8万円弱であるため、翌年度も概ね、計画通り使用していく予定である。
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