本年度は、未観測共通原因が存在する場合の因果構造探索に取り組んだ。未観測共通原因の存在は、観察データからの因果推論において最大の困難であり、それに頑健な推測法が望まれている。Judea Pearlの提案した構造的因果モデルのフレームワークにおいて、未観測共通原因の存在を許しつつ因果関係が非巡回であるという仮定のもとで、その定量的な因果関係をグラフィカルに表現する因果グラフを推測する問題を考えた。関数形に仮定をおかない場合は因果方向を推測できない場合が多いことが知られている。本研究では、因果関係が線形で、分布が非ガウス連続な場合について考察した。その場合には、未観測共通原因が存在しない変数間の因果方向がデータから識別でき、つまり一意に推測可能で、また、未観測共通原因のある変数ペアを同定することも可能であることがわかった。そのため、本アルゴリズムは、因果グラフにおいて未観測共通原因のある場所は、両方向の矢印で表し、そうでない場所は、有効辺の向きによって因果方向を、また有向辺の有無によって因果の有無を表すことができる。この成果は、機械学習の国際会議である23rd International Conference on Artificial Intelligence and Statistics (AISTATS2020)に採択された。そして、この未観測共通原因に頑健な因果探索法を含めた因果探索法を用いて遺伝子発現データの解析を行う共同研究に取り組み、生命科学の観点から有望な結果を得た。これについては応用数学合同研究集会2019にて研究発表を行い、現在論文投稿準備中である。
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