研究課題/領域番号 |
16K00050
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
二宮 嘉行 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (50343330)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 因果推論 / 傾向スコア解析 / 欠測データ解析 / 周辺構造モデル / 情報量規準 / セミパラメトリック推定 / モデル選択 / 統計的漸近理論 |
研究実績の概要 |
因果推論において基本的なものである周辺構造モデルに対し,傾向スコアを用いたセミパラメトリック推定法に対処できる Cp 基準を,そのモデル選択問題のために導出した,というのが前年度の主結果である.しかし,Cp 基準ということからわかるように,それは線形回帰の枠組みに限った話であった.本年度では,ロジスティック回帰や構造方程式モデリングといった枠組みに対しても対処できるよう,その情報量規準を拡張した.具体的には,まず,リスクを考える際に自然となるような,ある重み付きの Kullback-Leibler 情報量を二種類定義・提案した.一つは重みとして割り当て変数そのものを用いたものであり,もう一つは重みとして割り当て変数に逆確率をかけたものを用いたものである.そして,弱く無視できる割り当て条件を用い,それら情報量の漸近不偏推定量として基準を導出した.つまり AIC 型の情報量規準を導出したということであり,それらをそれぞれ uAIC,wAIC と名付けた.そして,それら基準は既存の情報量規準である QICw と大きく異なる量となることを確認した.数値実験においては,真の分布と推定された分布の距離について,また,真の構造を含むモデルあるいはそれに近いモデルを選択する確率について,三つの基準を比較した.そして,uAIC はベストな結果を与えることはあるもののワーストな結果を与えることもあることを確認した.一方で,wAIC は常にベストに近い結果を与えることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの結果は研究の第一段階を達成させただけのものであり,その適用範囲は非常に限られたものであった.本年度の結果はそれを通常の統計モデルの枠組みまで広げたものであり,こうなってはじめてある意味での完成形となったといえる.したがって,順調に計画は進んでいるといえる.一方で,これに付加的な価値を与えることについては完遂させることができなかった.例えば,交絡変数の選択問題に対して本提案を適用させるというアイディアについては,数値実験で有用性を完全に示すことまではできなかった.そういった付加的な価値をいくつか与えることができたならば,区分を「当初の計画以上に進展している」としてよかったと思っている.
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今後の研究の推進方策 |
まずは交絡変数の選択問題に対して本提案を適用し,それと QICw や FIC といった既存の情報量規準を比較し,提案基準の有用性を示す.また,基準を二重頑健化する,つまり傾向スコアのモデルと結果変数のモデルのどちらかが誤っていてもリスクの漸近不偏推定量となるような基準を構成する,というアイディアも完遂させる.二重頑健推定はホットトピックの一つであり,推定だけでなく情報量規準も二重頑健化することは重要と考えている.さらに,因果推論だけでなく欠測データ解析にも適用できるよう,また stabilized weight にも適用できるよう,提案基準を汎用化させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
手法の完成と基本的な設定における有用性の検証を優先させ,国内外研究者との交流を目的とした出張と,大規模な数値実験を行うための最新のパーソナルコンピュータの購入とを控えたことにより,次年度使用額が生じている.本年度は手法のカスタマイズ・改良を目的とした国内外研究者との交流を予定している(国外旅費:500千円,国内旅費:320千円).また,より広い設定における有用性を確かめる大規模な数値実験を行うため,最新のパーソナルコンピュータを購入する予定である(400千円).それ以外では,書籍や謝金などで使用することを計画している(書籍:170千円,謝金:50千円).
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