研究課題/領域番号 |
16K00073
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
丹治 裕一 香川大学, 工学部, 教授 (10306988)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ハイパフォーマンス・コン ピューティング / システムオンチップ / シミュレーション工学 / 高速伝送回路設計 |
研究実績の概要 |
Mooreが提案した平衡実現打ち切り法では,2つのリヤプノフ方程式を求解するが,システムの受動性を保証するには,それよりも演算コストが高い2つのリカッチ方程式を解かなければならない。回路は一般に修正節点解析法で定式化され,スパースな係数行列をもつ微分代数方程式で表される。ここで,リカッチ方程式を得るために ,修正節点方程式を状態方程式に変換する必要があるが,この変換には特異値分解が用いられ,状態方程式及びリカッチ方程式の係数行列は共に蜜行列になる。この場合にリカッチ方程式の求解コストは次数の3乗の複雑さとなり,ワークステーションを用いた場合には数1000次元のシステムが適用の限界となる。ゆえに,数100万次元のシステムの低次元化を行うためには,リカッチ方程式の係数行列はスパースに表現されなければならない。そこで,スパース特異値分解を適用して,スパースな状態方程式,ひいては,スパースなリカッチ方程式を得ることを考える。しかし,厳密には特異値分解は必要なく,それよりも遥かに計算コストが低いコレスキー分解で十分である。しかしながら,通常のコレスキー分解とは異なり,正定値でも負定値でもない行列を分解する必要がある。この場合のコレスキー分解の基礎が提案されており,この方法を改良することによって,スパースなリカッチ方程式を得る方法について検討を行った。次に,リカッチ方程式の反復解法であるコレスキー要素QADI法を適用した。コレスキー要素QADI法は非常に効率的な手法であるが,状態方程式の出力変数が1つの場合のみしか適用できないことが欠点である。そこで,コレスキー要素QADI法における行列変形を見直し,コレスキー要素QADI法を多出力変数の場合にも適用できるように拡張を行った。次に,固有値分解を用いることで変換行列を計算し ,低次元化モデル得る方法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画に関する学術論文を発表した。さらに,学術論文3件を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,平衡実現打ち切り法の性能限界を数値実験によって評価する。また,低次元化された方程式を回路で表現し,回路シミュレータSPICEを用いた過渡解析により,モデルの精度,効率を評価する。まず,平衡実現打ち切り法によって低次元化されたシステムの双対性を理論的に考察する。RLC回路の双対性は,インピーダンス,アドミタンス行列の対称性,ハイブリッド行列の対角ブロックの対称性と非対角ブロックの歪対称性に等価である。低次元化されたシステムの双対性を証明するには,コレスキー要素QADI法によって得られる2つリカッチ方程式の解の相互関係及び変換行列が有する性質を示す必要がある。システムの双対性が確認できればAndersonの手法によ って最小次数の回路でシステムを表現できることが分かっており,この手法を適用して得られた回路を回路シミ ュレータSPICEの入力ファイルであるネットリストで表現する。双対性が証明できない場合には,従来研究で低次元化されたシステムを回路で表現する方法を提案しており,この手法を用いてSPICE ネットリストで低次元モデルを表現する。次に,平衡実現打ち切り法の性能を評価する。大規模メモリ,多くのコアを有するプロセッサを搭載したワークステーションにMALTABをインストールし,低次元化に要する計算時間,メモリ容量を計測し,提案した低次元化法の性能限界を調査する。さらに,作成した回路モデルの有効性について評価を行う。回路設計で標準的に用いられているHSPICEをインストールする。そして,集積回路の配線を想定したRLC回路の過渡解析を実行し,低次元化前後での計算時間,メモリ容量を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平衡実現打ち切り法の評価のために計算機を購入する予定であった。そこで,前倒し請求を行った。しかしながら,年度末にCPU性能の更新が行われたために,正当な評価は行えないと判断し,計算機の購入を断念した。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に検討を行った平衡実現打ち切り法の評価を行う予定である。これについては大学院生にも依頼する予定であり,そのための計算機が必要である。また,海外発表を行う予定である。
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