研究課題/領域番号 |
16K00073
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
丹治 裕一 香川大学, 創造工学部, 教授 (10306988)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ハイパフォーマンスコンピューティング / システムオンチップ / シミュレーション工学 / 高速伝送回路設計 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,確率的平衡実現打切り法を電磁界解析に応用することになっていた。3次元上に取られたグリッドに対して,電界と磁界を互い違いに配置して,微分方程式を作成するFDFD法を用いて,電磁界システムに確率的平衡実現打切り法を適用する予定であった。しかしながら,FDTD法を用いるよりも,電磁界システムに等価なインダクタンス,キャパシタンス,抵抗を抽出することの方が効率的な解析が行えることが分かり,そのためのソフトウェアであるFastCap及びFastHenryを用いて,電磁界システムに等価な回路網の抽出を行い,確率的平衡実現打切り法の適用を行った。 平成29年度では,RADIによるリカッチ方程式の解法を用いた確率的平衡実現打切り法の開発を行った。この再検討を行ったところ,RADIのような近似のリカッチ方程式の解法ではシステムの受動性を理論的に保証できないことが分かった。そこで,射影行列を用いてリカッチ方程式を低次元化することで受動性が保証できることを証明した.また,射影行列の作成にはリカッチ方程式の解のみではなく,求解が容易であるリヤプノフ方程式の解も利用できることが分かった.さらに,線形受動回路網が有する指数1, 2のシステムの適用に関しても一般化を行った.また,受動性の保証に関しては,数値的に保証する新たな確率的平衡実現打切り法の開発を行った.また,本手法に関しては,理論的な考察も行なっており,いくつかの例題に適用し,その有効性が確認できている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度から30年度において,4件の学術論文が掲載された.1件目はRC及びRLC回路に対して平衡実現打切り法を適用する方法である.本論文は,回路シミュレーション分野では広く普及している修正節点解析法による回路網の定式化から,如何に平衡実現打切り法を用いて低次元化モデルを作成するかについて検討を行ったものである.2件目はRLC回路について,受動性と双対性を保証する方法について検討した内容であり,数学的には有界性を用いた低次元化を行っている.ここでは,リカッチ方程式の解法の効率性を損なうことのないように,係数行列のスパース性を保存する方法について提案を行っている.3件目では,リカッチ方程式の高速解法であるRADIを用いて,受動性を保証する確率的平衡実現打切り法の提案を行った.RLC回路をデスクリプタ・システムで表現した場合には,指数1, 2の性質が現れるが,従来法では,指数1の場合にのみ確率的平衡実現打切り法が適用できていた.そこで,指数2の場合には,ストークス型の指数2システムから状態方程式を得る新たな手法を開発し,確率的平衡実現打切り法により低次元化を行う新たな手法を提案した.4件目は電磁界システムの低次元化に必要となる電磁界の等価回路表現に関する論文である. 3件目のRADIを用いる方法に関しては,近似のリカッチ方程式の解法ではシステムの受動性を理論的に保証できないことが分かった。そこで,この改良を行い,理論的及び数値的に受動性を保証できる確率的平衡実現打切り法の提案を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究成果として,近似のリカッチ方程式の解を用いた確率的平衡実現打切り法を提案し,その成果を数値解析分野ではトップジャーナルとして知られているSIAM Journal on Matrix Analysis and Applicationsに投稿したが不採録となった.現在の体裁でも,IEEEなどの電気系の論文誌では採録されると考えているが,この研究成果は数値解析の論文としても十分通用する内容であり,その内容を再検討して採択をめざす. 査読者の意見では,本論文ではリカッチ方程式を得るために摂動係数が用いられており,その影響について検討を行っていない.そのような場合には,リカッチ方程式は厳密には定義できないため,ルアー方程式を直接解く必要があるとのことであった.また,近年,数値解析分野において,ルアー方程式の数値解法が開発されているとの指摘があった.そこで,本年度では,リカッチ方程式ではなくルアー方程式の近似解法について検討を行う.ルアー方程式の近似解が得られれば,その後の低次元化は,これまでに開発した方法と全く同様であり,理論,実用に優れた確率的平衡実現打切り法が開発できると考えている.この検討を行った後に,論文の再投稿を行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の公表ため論文掲載料と英文校閲の費用が必要となったため。
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